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それに、俺とサイクロンは悲しみ団地に住み、エッグは暗やみ団地だったから、朝から晩まで一緒にはいられなかったんだ。
そのせいかな。俺は、いつもエッグが恋しかったっけ。
一方、サイクロンはどんなヤツだったかっていうと、こんなヤツだった。
あれは・・・俺達がまだ十三歳だった頃。もちろん、まだエッグも俺も、ヘルズ・スクエアで暮らしてた。
悲しみ団地では、夕食まであと五分。ふと気付くと、サイクロンの姿が見えない。
実はこれ、大変なことなんだ。食い物が出てきた時にその場にいなきゃ、そりゃ、食べるのを諦めたのと一緒さ。団地では、住人全員が一緒に食事を取る。みんなが一斉に鍋に飛び掛かって、ものの十分もすれば、中身はぜんぶ消え失せるんだ。ヘルズ・スクエアでは、一日一食なんだから、全くしゃれになんない。
俺は、慌ててサイクロンを探しに出た。ところが、見つからないんだ。
全ての通りを駆けずり回り、ヘル・マーケット(ゴミ捨て場)を見て、ルインズ(廃墟)を覗いた。もともとヘルズ・スクエアは狭いんだしな。それなのに、どこにもいない。
最初は腹が減ってるのも手伝ってイライラしてたけど、その内、本気で心配になってきた。
まさか、スワンプ(沼地)の底無しに落ちたんじゃないだろうな。島は丸ごとひどい湿地帯だし、深い所じゃ、溺れる可能性もある。
サイクロンは、俺やエッグほどスワンプに詳しくないんだ。方向音痴の気味があるから・・・ていうか、なんに関してもヤツはズレ気味なんだ。標識があるわけじゃなし、暗くなってからのスワンプは危ない。
俺はスワンプに走り込んで、腹まで泥水に浸かりながら、探し回った。
夕飯の事なんかすっかり忘れ、ついでに言うなら、サイクロン以外の事は何もかも忘れてた。
それでも、あわや、見逃す所だったよ。サイクロンが、鮮やかな赤いトレーナーを着てなかったら、間違いなくわからなかっただろうな。
サイクロンは、北側のスワンプの所々にポッカリと浮いている、コケに覆われた小さな浮島の一つにいた。横たわっている。
何てこった!倒れてるぞ!死んでる?
不吉な考えが頭を横切って、俺はヤツの名前を絶叫しながら、泥水をかき分け蹴散らして駆けつけた。
サイクロンはヒクッとも動かない。こいつはドエライ事になった。どうしよう?
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