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パニックになったせいで息が上がり、小島に這い上がるのに、何分もかかった気がしたよ。
崩れるようにサイクロンの横にたどり着き、震える手でヤツの体を起こそうとした丁度その時、サイクロンが顔を上げた。
顔の右側を横に向けていたせいで、頬が半分、泥だらけだ。どこからどう見ても、具合が悪そうではない。
生き生きと目を輝かせ、満面に笑みを浮かべて、元気一杯、大声で叫ぶ。
「やあ、マッシュ!コレ、見ろよ!」
俺は、安堵のあまり全身脱力してて「コレ」を見るどころじゃない。でも、俺が目を向けるまでサイクロンは喚き続ける。
「コレ、見てくれよ。なあ、コレだってば!」
「コレ」は、一匹の大きく太ったウジ虫だった。白っぽい半透明の、ハエの赤ちゃんだ。ヘルズ・スクエアでは、珍しくもなんともない虫さ。見慣れてるとはいえ、あんまりじっくり顔を会わせたい相手じゃない。
なのに、サイクロンときたら、ウジ虫に求婚でもしかねない目つきでウットリだ。
コイツ、大丈夫なんだろうか?
[俺]
ソレが一体どうしたんだ?
[サイクロン]
いい事、思いついたんだ。
[俺]
夕飯を食いっぱぐれるぜ。価値がある事なんだろうな?
[サイクロン]
もちろんさ!
マッシュ・・・お前さ、ウジがハエになる瞬間って、見たことあるか?
[俺]
一瞬で早変わりはしないだろうな。
[サイクロン]
俺さ、見たことねえなって、ふと思ってさ。
この子をじっと見ていりゃ、いつかハエに変わるだろう。それまで、待ってようと思う。
[俺]
ハア?なんでそんな事、知りたいんだ?
[サイクロン]
よくわかんないけど、多分・・・三、四日くらい見張ってれば解るはずだ。
[俺]
三日もここにいるつもりか?
このウジ虫を、団地に連れて来りゃあいいじゃないか。
[サイクロン]
ダメだね。自然な姿が見たいんだ。環境が変わったらマズイよ。
俺が付き添ってる。
[俺]
病人じゃないんだぞ。
お前が添い寝してやったって、ウジ虫は嬉しがりやしないんだぜ。
[サイクロン]
嫌がりもしないだろ。
まあ、俺に任せとけって。
帰っていいぜ。大丈夫、大丈夫。
結果は、ちゃんと教えてやるから。
[俺]
別にいいよ・・・。
それよりメシはどうすんだ?
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