ヘルズ・スクエアの子供達~パートⅡ~マッシュのお話

5/48

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/48ページ
 パニックになったせいで息が上がり、小島に這い上がるのに、何分もかかった気がしたよ。  崩れるようにサイクロンの横にたどり着き、震える手でヤツの体を起こそうとした丁度その時、サイクロンが顔を上げた。  顔の右側を横に向けていたせいで、頬が半分、泥だらけだ。どこからどう見ても、具合が悪そうではない。  生き生きと目を輝かせ、満面に笑みを浮かべて、元気一杯、大声で叫ぶ。 「やあ、マッシュ!コレ、見ろよ!」  俺は、安堵のあまり全身脱力してて「コレ」を見るどころじゃない。でも、俺が目を向けるまでサイクロンは喚き続ける。 「コレ、見てくれよ。なあ、コレだってば!」 「コレ」は、一匹の大きく太ったウジ虫だった。白っぽい半透明の、ハエの赤ちゃんだ。ヘルズ・スクエアでは、珍しくもなんともない虫さ。見慣れてるとはいえ、あんまりじっくり顔を会わせたい相手じゃない。  なのに、サイクロンときたら、ウジ虫に求婚でもしかねない目つきでウットリだ。  コイツ、大丈夫なんだろうか? [俺]  ソレが一体どうしたんだ? [サイクロン]  いい事、思いついたんだ。 [俺]  夕飯を食いっぱぐれるぜ。価値がある事なんだろうな? [サイクロン]  もちろんさ!  マッシュ・・・お前さ、ウジがハエになる瞬間って、見たことあるか? [俺]  一瞬で早変わりはしないだろうな。 [サイクロン]  俺さ、見たことねえなって、ふと思ってさ。  この子をじっと見ていりゃ、いつかハエに変わるだろう。それまで、待ってようと思う。 [俺]  ハア?なんでそんな事、知りたいんだ? [サイクロン]  よくわかんないけど、多分・・・三、四日くらい見張ってれば解るはずだ。 [俺]  三日もここにいるつもりか?   このウジ虫を、団地に連れて来りゃあいいじゃないか。 [サイクロン]  ダメだね。自然な姿が見たいんだ。環境が変わったらマズイよ。  俺が付き添ってる。 [俺]  病人じゃないんだぞ。  お前が添い寝してやったって、ウジ虫は嬉しがりやしないんだぜ。 [サイクロン]  嫌がりもしないだろ。  まあ、俺に任せとけって。  帰っていいぜ。大丈夫、大丈夫。  結果は、ちゃんと教えてやるから。 [俺]  別にいいよ・・・。  それよりメシはどうすんだ?
/48ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加