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本当に愉快なヤツだよな。
[エッグ]
これ、渡しとくよ。
エッグは、派手なバックハンドで、クシャクシャのビニール袋を投げつけてきた。
中には、大量のパンの耳。ヘルズ・スクエアの子供達にはごちそうさ。エッグのお袋さんが作る、ホープ島一うまいスイカの皮のピクルスもある。リンゴの芯からお酢を絞って、漬け込むんだ。それに、ボタン・ランプも入ってた。
ヘルズ・スクエアには電気が無かったから、暗い中での作業には、このランプを使うのさ。
小皿に貴重な油を少し入れる。その上に、ボロ布で包んだボタンを置く。油を吸った布の端っこを、ピンと立てて火をつければ、小さな灯がともる。
[エッグ]
そのパンは、今日の朝、ヘル・マーケットで拾ったんだ。まだ、さして悪くなってない。
[俺]
ありがとな。
[エッグ]
サイクロンの為じゃない。
君が心配だったからだよ、マッシュ。
あんまり気を揉まないようにね。好きにやらせておくさ。
エッグはニッコリすると、そのまま暗やみ団地に戻っていった。
俺もサイクロンの元へ戻ろうとして、歩き始めてから、ふと気が付いた。
エッグは、サイクロンがスワンプにいるのを知っていたらしい。
だったら、どうして自分で食べ物を届けなかったんだろう。
[俺]
ほら、エッグからの差し入れだぜ。後で礼を言っとけよ。
[サイクロン]
誰からだって?
[俺]
エッグだよ。
[サイクロン]
ふーん・・・。
そりゃまた、ご親切なこったね。
[俺]
なんだ、その言い草。
まあ、それはともかく・・・。
どうだ?ウジ虫さんのご様子は?
もうハエになりそうか?
[サイクロン]
マッシュ・・・。こいつ、スゴイ生き物だ。お前も、じっくり見るべきだ。
だって、そうだろう?
今はまだ、イモムシかナメクジみたいでさ、ちっぽけな触覚を動かして、周囲を探って、ノタノタ這ってる。
それが今に、羽が生え、大きな目を持って、なんでも見えるし、どこにでも行けるようになる。現実とは思えない。
ハエに変化した時、この子はどう感じるんだろうな?何を思うんだろう?
どこに飛んでいくのかな?島を出ていくだろうか?
俺は知りたい。ただ、知りたいんだ。
[俺]
へえ・・・。
それで?なあ、それで?
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