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第一話☆あなたと子どもと……
俺は今、ある教師から
逃げるべく、廊下を
走って屋上に向かっている。
名前は四浦満彦。
追いかけ回されるのには
理由があった。
遡ること三週間前の土曜に
俺は本屋からファミレスに
向かおうと横断歩道を
歩いていたら
小学生くらいの男の子に
信号無視をした車が
今にも突っ込みそうだった処を
助けたのがきっかけだ。
思った瞬間、体が動いた
運動神経には自信があった。
キャーという周りの悲鳴や
危ないぞという声を
全て無視して、
子どもを抱き抱えて
もといた場所に戻った。
『おい、怪我してないな?』
目に涙を溜めて頷いた。
よかった~
目付きが悪いせいで
よく、因縁をつけられるが
喧嘩やもめ事が嫌いだし
子どもは好きだ。
子どもを立たせて
もう一度怪我がないか
確かめてホッとした。
そこに父親らしい人が
慌てて駆け寄ってきたのだが
その人物は去年の担任、
四浦満彦だった。
二人とも一瞬固まったが
子どもの存在に気付き、
俺が行ことしていたファミレスに
三人で行くことになった。
それからというものの
この父子に
妙になつかれている。
そして、冒頭に戻るわけだが、
とうとう、屋上まで来てしまった……
逃げ道はない……
「もう逃げられないぜ」
ガシャンと背中にフェンスが当たった。
『わかったよ』
俺はその場に座り込み
お手上げという意味で
両手を上げた。
授業中の屋上には
俺と四浦しかいない。
そもそもの発端は
四浦から来たメールから始まった。
あの日から、毎日のように
桜耶が喜ぶからと
夕飯に誘ってくるのだ。
親父とは折り合いが悪く、
一人暮らしだから別に
断る理由はないのだが
照れくさくて何時も
[また今度な]と送ってしまうのだ。
この二年間で、
誰かと食事をしたのは
三週間前のファミレスで
四浦と桜耶と三人で
食べたのが初めてだった。
『はぁ~
わかった、
今日は夕飯
食べに行くよ』
やっと折れた俺に
満足げに笑った四浦は
何が食べたいか訊いてきた。
基本的に何でもいい。
自炊をする俺は
大抵の物は作れる。
『じゃぁ、
四浦の一番得意な物で』
特に思い付かなかったから
そう言ってみた。
「了解」
返事をした後、
徐に、ポケットに手を入れ、
煙草を取り出した。
この三週間で
色々わかったことは
四浦が親バカでだけど
干渉はあまりしないとか
休日は桜耶と思いっきり
遊んでやることとか
それをリアルタイムで
俺に送ってくることとか。
三ヶ月後、
週末に四浦家に
行くのが当たり前になっていた。
時には泊まることもあり、
桜耶も[マサ兄ちゃん]と呼んでくれて
四浦まで家の中限定で
柾と呼び、俺も満彦と
お互いを下の名前で
呼ぶようになっていた。
だから、少し
気が抜けていたのかも知れない。
まさか、別れた奥さんが
俺たちが三人で歩いてる
写真を校長に送っていたなんて……
「二人とも、呼び出してすまないね」
高校最後の夏休みまで
後二週間となった
ある月曜日に俺と四浦は
校長室に呼ばれて
例の写真を見せられた。
そこに写っているのは、
俺と四浦と真ん中に桜耶がいる。
三人で手を繋ぎ、
俺たちの手には
片方ずつ買い物袋が
握られている。
そう、これは三人で
買い物に行った時の写真だ。
小二になる桜耶は
普段は父親に気を使い
大体のことは自分でやる。
だけど、週末、
特に俺が行くと少々我儘になる。
そう、あの写真のように
手を繋ぎたいとか、三人で
買い物に行きたいとか。
そして、俺は四浦に対して
いけない感情を持っていることを
つい最近に気が付いた。
普通ならあり得ない感情。
だが、俺は四浦を
“そういう”感情で見ている。
一つ一つの仕草に
一々ドキドキしたり、
桜耶と遊んでる時の
無防備な顔に頬が緩んだり……
あの空間に入れないことは
端からわかっているが、
せめて、四浦と桜耶の
傍にいたいと思ってしまった……
長い間、誰も口を
開こうとはしない。
うちの校長は
本来、優しい。
始業式や終業式の
挨拶状なんかは短いし、
冗談を言ったりもする。
常にニコニコしてる
校長が困った顔をしている……
最初に口を開いたのは四浦だった。
「俺は三神の
出入りをやめさせるつもりはありません」
その言葉に焦ったのは俺だった。
『それは、考え直した方が……』
そりゃぁ、俺だって
四浦や桜耶と家や外で
会えなくなるのは嫌だけど、
ほとぼりがさめるまで
やめておいた方が
いいんじゃないだろうか……
校長も苦笑いだ。
「じゃぁ、せめて
今日だけは家に来てくれ」
考えた末、今日だけは
行くことになった。
その後はいつ行けるかわからない……
校長室を出てすぐに
俺たちは帰ることになった。
制服を着替えるのに
一旦、自宅に帰った。
夜八時過ぎ、
四浦ん家に向かった。
**その夜**
玄関に入れるなり、
四浦はいきなりキスしてきた。
驚き過ぎて目を瞑ることさえ
出来ずにいると今度は
無理矢理舌を捩じ込まれた。
何でこうなった!?
奥のリビングには桜耶がいるはずだ。
段々、苦しくなり、
四浦の胸を叩いたら
やっと離してくれた。
『満彦、どういうつもりだ‼』
確かに、俺は四浦が好きだ……
キスだって嫌だったわけじゃない。
だけど、今は
そういう場合じゃない。
好きだからこそ
焦っては駄目だ。
「…………」
四浦は黙ったままだ。
『満彦』
今度はゆっくりと呼んだ。
「悪い、
....
好きなヤツに当分
会えなくなると思ったら
抑え切れなくなった……」
は? はぁぁぁ!?
声に出そうなのを抑えて
心の中で思いっきり叫んだ。
俺の聞き違いじゃなければ
四浦は確かに
[好きなヤツ]って言ったよな……
今の今まで、
そんな素振りは
見せなかたはずだ。
家と学校での違いなんて
呼び方くらいで他は
何も変わっていない。
【四浦】と呼び捨てなのも
ため口なのも何も変わっていない。
『何を言い出すんだよ』
動揺と嬉しさを隠したまま
引っ剥がした。
四浦は何も答えたない。
早く行かないと桜耶が
玄関に来てしまうかもしれない。
『はぁ~
兎に角、中に入れてくれ』
「そぉだな。悪い」
リビングに行くと
桜耶が走って来た。
「マサ兄ちゃん」
この笑顔も当分見られないのか……
寂しいな。
『宿題は終わったか?』
四浦が教師だからか、
宿題は夕飯前に
終わらせるようにさせている。
「うん‼ 今日はね
パパがちょとだけ手伝ってくれたの」
へぇ~
珍しいこともあるんだな。
チラっと四浦をみやる。
聞こえてるのやら
聞こえてないのやら
四浦は何も言わない。
桜耶をリビングに残し、
二人で夕飯の準備を始める。
『なぁ、満彦
さっき言ったこと本気か?』
子どもがいる所で
する話じゃないが
今訊かなきゃ
ずっと訊けないままになる。
「あぁ、本気だ」
調理する手を止めて、
四浦が俺と向き合った。
「本当は今すぐ
お前と桜耶を連れて
海外移住したいくらいだ。
ルクセンブルクとかデンマークとかな」
同性婚が認められてる国を
挙げ、真剣な目で見据えられ
目を反らせなくなった。
[好き]のレベルが[結婚]したいくらい
大規模だったわけか……
まさか其処まで
思われてるとは思いもしなかった。
『なぁ、満彦、
それは俺と結婚するつもりなんだよな?』
目を見れば、そんなこと
訊くまでもないが確かめたかった。
「勿論だ。
お前と結婚して桜耶と
三人で誰にも邪魔されずに
静かに暮らしたいと思ってる」
ふぅ~
此処まで言われちゃ
今の状況が最悪でも
嬉しくなっちまうな。
『わかった。
其処まで考えてくれてるなら
真剣に答えたなきゃいけないよな。
俺も結婚したいくらい満彦が好きだ。』
二人を幸せにしたい。
十八の餓鬼が偉そうなこと
言うなと世間に非難されても
俺は二人がいないと生きて行けない。
「本当か!?
ありがとうな。」
満彦は俺を抱き上げる。
ゎゎゎ~
確かに身長差は十五㎝くらい
違うが俺も男としてのプライドがある。
『下ろせよ』
腕の中で暴れた。
いくらリビングから
見えないとわいえ恥ずかしい。
「ぁはは、悪い悪い」
笑いながら下ろしてくれた。
二人で料理をして
待ちくたびれているだろ
桜耶のもとへ行き、
三人で夕飯を食べた。
俺は決めた。
『満彦、桜耶
大事な話があるんだけど
聞いてくれるか?』
食休みの間に
そう切り出した。
「マサ兄ちゃん、話って何?」
「おい、柾」
桜耶は無邪気に、
満彦は眉間にシワを寄せて訊いてくる。
『俺はお前とパパと
三人暮らしたいんだけど
此処に引っ越して来てもいいか?』
校長室では、ああ言ったけど、
満彦がプロポーズ紛いな
告白をして来たせいで
気持ちの制御ができなくなった。
「僕はマサ兄ちゃんが
一緒にいてくれたら嬉しいよ」
純粋だなぁ。
四浦の育て方がいいんだろうなぁ。
「俺が駄目だと言うわけないだろう」
二人を抱き締めた。
自分に嘘はつけない。
ずっと、三人でいたいと思った。
**二ヶ月後**
夏休みもそろそろ
終わろとした頃
俺の引っ越しも終わった。
寝室は四浦と二人で
使うことになった。
その他に俺の部屋がある。
前は客間にしていたという。
ということで、
ベッドは寝室へ。
本棚や机などは
元客間に運んだ。
『改めて言うのも
照れ臭いけど
今日から二人ともよろしく』
今日から正式な
此処の住人になった。
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