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「あ、あの、八幡くん、ありがとう・・・・・・」
忌々しく財前が去った方向へ視線を向けていると、ふと弱々しい声が俺の名を呼んだ。
「あ? ああ、いや。てか、お前、俺の名前知ってんの?」
「え、あ、八幡くん、目立つし。それに、他のお金持ちの人たちとはなんか、違うし。・・・・・・それと僕たち、同じクラスだから」
思わず無言になる。そういやぁ、見たことある。あるはずだ。てか、後ろの席じゃねぇ? 人の名前覚えるの面倒で、つるむつもりもなかったから全く覚えてなかった。なんて名前だったっけ。
「わ、悪い」
「ううん。僕みたいな暗くて地味な人間、覚えてなくて仕方ないよ」
「や、そうじゃなくて、俺、他の奴もほとんど名前覚えてないから」
「え? そうなの?」
そこでようやくそいつの顔を見ると、気の弱そうな優しげな顔つきで、マッシュルームよりはボリュームがないような髪型で、黒縁メガネをかけている。
「教えろよ、名前」
「あ、うん。黒住正樹っていいます」
「正樹か。覚えとく。・・・・・・俺の事も、瑛でいいから」
「瑛、くん。ありがとう、助けてくれて。ごめんね、痛いでしょ」
「いや。これくらい平気」
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