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「専務は、彼女とかいらっしゃらないんですか」 「なんで」 「なんでって、その、かっこいい方なので女性がほっとかないだろうなと」  ホテルの視察に回っている時、案内してくれていたホテルの支配人に不躾に問われた。そういう質問を向けられることは少なくはないが、決まってフロントだか客室係の若い男女から向けられることが多い。専務とはいえ、歳が近いため気安く思えるのだろう、結構ズバッと問われる。決まって「彼女、いない」と”は”を強調して答える。嘘は言っていない。別に隠すつもりはないが、別にぺらぺらと話す必要もないと思っているからだった。  ただ、支配人のような年配の人からのこの手の質問には続きがある。 「後継者をお作りになるためには、そろそろお相手も探し頃ではないかと思いまして。八幡社長は、晩婚だったとは聞きますが、しっかりと瑛さんのような優秀なご子息を得ることが出来ましたし」 「余計なお世話というものだな、それは」 「失礼いたしました」  その問題が、残っているという事は俺にもわかっていた。だからこそ、高校の頃、夏樹とどうこうなるつもりはなかったのだ。ただ秘める恋でいいと今思えば、なんとも青臭いことを考えていたものだが。
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