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でも、いずれはそんな話だってもしかしたら持ってくる下世話な人間もいるだろう。頭の固そうなお偉いさんなんかは特に。
それでも、俺はもう夏樹以外を好きになる事はできない。ましてや、家のためとはいえ身体を重ね、子どもを作るなんてできる気がしない。ならば、早いうちに父には正直に話しておいた方がいいのかもしれない。ガッカリされるかもしれないし、失望され、親子の縁を切られる可能性もゼロじゃない。その覚悟もしておかないとな。
そんなことを考えていたら、俺は本部の社長室の前まで来ていた。自分が考えていたのは私用の用件で、こんな所でするものじゃない。でも、家ではなかなか顔を合わせることができないのだからここに来るか、連絡をして時間を合わせてもらうしかないのだけど、思い付きで行動したせいで、連絡することもせずこんなところに出向いてしまった。
でも。思い立ったが吉日ともいうし。もし、親子の縁を切られる可能性があるのなら、夏樹には相談せず自分の責任でするつもりだ。なにかあっても、夏樹が気に病むことがないように、俺の責任だと突っぱねるつもりで。
「社長、瑛です。少しお話があってきました」
ノックをして、声をかけると、中からは菱川の声で応答があった。社長室が開けられ、中へと促される。
「瑛、頑張ってるようだね。いろいろと話を聞いてるよ」
「筧からですか?」
「それもあるし、他からも。いい評価が上がってきている」
「本当ですか。恐縮です。必死で喰らいついてるだけですが」
「それでも、その努力を見ている者はきちんと見ているものだ」
父に評価されるのは嬉しい。子煩悩とはいえ、両手離しに褒める人ではないからだ。でも、必要な時にはきちんと褒め、評価をくれる。仕事人間ならではなのだろう。
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