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接待で使うという父の言葉通り、そこは普段よいそれと立ち寄れないような雰囲気の高級料亭だった。正直俺は、初めて足を踏み入れる。俺も父の後を継ぎ社長程にでもなれば、こういうところを使うようにもなるんだろうが、俺にはまだまだ不相応な場所だ。
「緊張することはない。親子の食事なのだから」
「う、うん。でも、さすがに平常心でというのは難しい」
「ハハッ。そういうところを見ると、やはりまだまだ子どもだな」
「なっ、俺はもうれっきとした!」
「そういう意味じゃない。まぁでも、そうムキになるところも子どもだ」
そう言われ、グッと息を飲む。まさにその通りだ。昔から俺はすぐムキになっていらない喧嘩を買ってしまう所があるし、素直になれない天邪鬼だというのも自覚済みだ。
「いつまでも、子どもでいてほしいんだよ。瑛は、俺の後を継ぐために必死に大人になろうとしている。それは喜ばしいことだけどね、父としてはもう少しゆっくり成長してほしいとも思う。最近すっかり頼ってくれなくて、少し寂しいんだよ」
「二十五にもなって、父親に頼ってばかりはいられませんよ。俺だけではなく、世間一般的にもそうじゃないんですか」
父親と同じ会社で働くという環境にいる俺の方がきっと少ないだろう。こういう世界ではおかしくない話だが、正樹のところだって仕事場は関係ない。だから、基本的には自分で何とかしたり、身内ではない職場の上司に頼るものであって。なんて、そういう話ではないことも分かっているのだけど。
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