5/14
前へ
/146ページ
次へ
 ムッとしたまま黙り込んだ俺に、少し困ったような顔をして一度下がると、食事を乗せたカートを押して戻ってくる。俺の目の前に温かい食事を次々と広げていくと、一歩下がる。できた世話係だ。  こういう事をされる度、どこぞの王族だよ、なんて思いながら、これも夏樹の仕事なのだと諦めている。  昔は、それこそ夏樹がまだ学生の頃は、一緒に食事をとったり遊んでもらったりもしていたように思うのに。いつからか、恐らく夏樹が大学を出て正式に教育係兼世話係として働くようになってからだ。一緒に食事をとらなくなったのは。  最初の頃は、確かに寂しかった。まだその頃は八歳くらいの時で、一緒に食べたいと駄々をこねて困らせたのを覚えている。決まって夏樹は困り顔で謝るばかりだった。  黙々とフォークとナイフを使って食事を進める。静かな時にももう慣れた。慣れてしまえば、すべてどうってことないことを、俺はもう知っている。一人での食事も、孤独な夜も。 「ごちそうさま」 「ブロッコリーが残っていますよ」 「・・・・・・いらない」  サラダの皿に残されたブロッコリーを目ざとく指摘する夏樹にぼそりと返す。俺は、ブロッコリーが嫌いだ。それは、夏樹だって知っている。知っていてわざとそう言うのだ。意地悪だ。
/146ページ

最初のコメントを投稿しよう!

541人が本棚に入れています
本棚に追加