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「よく頑張りました」
夏樹はそう言って、まるで子どもにするように俺の頭を撫でる。子ども扱いにムッとするけど、夏樹に触れられるのは悪くない。ここでいつもみたいに悪態をついてせっかくの触れ合いが終わってしまうのは避けたいから、ぐっと我慢する。
「部屋に戻る」
「お風呂はどうされますか」
「もう少ししたら入るから、ほっといてくれていいよ」
「わかりました。では、私は下がらせていただきますね」
「うん」
基本的に、夏樹は朝食から夕食までだ。それが終われば、離れにある自分の部屋に戻ってしまう。俺の家には他にも使用人がいる。夏樹以外は皆通いの使用人だ。夏樹以外は、基本的に掃除や買い物、食事の準備を行っている。
その、使用人の管理をするのも夏樹の仕事だった。俺が学校に行っている間や、空いている時間は、使用人のシフトの管理や申し送り的なものをしているらしい。
この家のあれこれを仕切っているのが夏樹だという事だ。
夏樹はなんで、こんな仕事をしているんだろう。夏樹は頭がいい。他にもっと夏樹の能力を発揮できる仕事はたくさんあるんじゃないか。それこそ、父さんの秘書とか、そういったサポートだってできるはずだ。それなのに、なんで俺なんだろうか。
夏樹が去り、一人になった部屋。静かな部屋が嫌いで、いつしか部屋にいるときは音楽を流すようになった。ルーティーンのようにデッキのスイッチを入れると、軽快な音楽が流れ出る。曲はなんだってよかった。ただ、無音でなければ。この部屋を空間を賑わせてくれるならなんだってよかった。
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