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 覗いてみれば、気の弱そうな男子生徒が靴箱を背にバランスを崩しかけている。その彼の胸ぐらをつかみ上げ凄みを聞かせているのは、財前(ざいせん)とかいう、どっかの政治家の息子で、どうしようもない親の威を借りたクズだ。  庶民――という言葉から、恐らく相手は一般枠の生徒だろう。この高校は、勉強や部活にも力を入れているため、所謂金持ちの子ども以外の一般家庭の子どももいるにはいる。もちろん、半数以下ではあるが。  金持ちの一部には、そう言った生徒を見下す醜い性根の奴も少なからずいて、こういった場面はよくある。教師も見つければ注意はするが、相手は子どもとはいえ大きな後ろ盾がある。そう強くも言えず、状況はあまり変わっていない。 「ごめ・・・・・・そんなつもりじゃ」 「ああ? 聞こえねぇよ」  財前が怒鳴りながら右手を振り上げる。俺は咄嗟に駆け出して、その間に入り込んだ。もっと他に言いとめ方はあったのかもしれないが。咄嗟だったため、仕方ないだろう。左頬に鋭い痛みを感じ顔をしかめ、たたらを踏む。目の前の財前の顔が唖然と目を瞠り、後ずさった。 「て、てめぇ、飛び込んできてんじゃねぇよ!」 「お前が品のないことやってるからだろ。恥ずかしい男だな」 「なんだと!」 「暴力、訴えてやってもいいんだぞ」 「なっ、――くそ! てめぇがツッコんできたんじゃねぇか」  財前は決まりの悪い顔をして逃げるように立ち去った。あいつだって、問題を起こせば困ることはわかってる。だから、文句を言ってこないだろう弱い立場の人間をいたぶって発散するんだろう。
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