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41.追憶
それは直球だった。
いつかはそれを、優に話さないといけないと思っていた。
でも…
あの頃…
相手の心から愛が消え去ったと言うのに、俺の中の想いは行き場を失ったまま……
くずぶり続けて、苦しみ続けた。
許して欲しいと願って、それが決して叶わない事だと分かるまで…
そのことが理解できるまで、馬鹿みたいに時間がかかった。
翔くんが一番愛したもの…
それを俺と母さんが、奪ってしまったんだと分かった時に、全ては決まっていた。
もう、彼に温かい気持ちが戻ってくる事はなかった。
優しかった君…
俺を愛おしそうに見つめた君は、跡形もなく消えてしまった。
残ったのは後悔だけだった。
捧げた純粋な心を、彼は後悔した。
優に、一体 何から説明すればいいんだろう。
『智…?』
「…ごめん…上手く説明できない。翔くんは…俺を………。」
俺を……
言いよどんでしまった俺が再び口を開くのを、優はじっと辛抱強く待っていた。
だから…
ちゃんと話さないといけない。
ちゃんと…
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まだ高校生だったころ、彼の事を唯一相談したのが優だった。
自分の気持ちを知られてしまっていて、彼に隠しようが無かった。
『そんなに兄弟だって事が重要…?』
「…おとうさんが悲しむだろ。翔くんは、なんと言っても櫻木家の長男だし…。」
『…かわいそぉ。』
「誰が…?」
『櫻木先輩。』
「…。」
『あんなに秋山さんの事が好きなのにね。』
そう言われて何も返せなかった。
翔くんの気持ちは分かってた。
何時だって、俺を熱く見てきたからバレバレだったし、おとうさんにバレるんじゃないかと、いつもヒヤヒヤしていた。
『まあでも…兄弟ってのも…辛いよね。』
何だ急に。
『男同士な上に、兄弟でくっ付くって、罪が深いのかな…?』
「!」
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俺が思ってる事を、優が言い当てたから驚いた。
いつか罰が当たるんじゃないかと怖かった。
母さんはいなくなってしまったけれど、俺には優しくて大切な家族が残されていた。
だから孤独じゃなかった。
まさか…
おとうさんが亡くなった後に、何倍にもなってソレが俺に押し寄せてくるとは思ってもみなかった。
俺は「償いたい」と言い
翔くんは「償え」と言った。
だが、俺は心のどこかで、彼が許してくれると信じていた。
そんな甘い事を…
今は怒りに駆られていても、 落ち着けば、俺の事だけは、許してくれるんじゃないかと思っていた。
そんな甘い事を…
彼が確かに自分を愛してるって思っていたから。
あの時、彼にあったのは後悔だけだったのに…
彼は俺をを愛したことを、悔やんだ…
その時間を返して欲しいと叫んで、叫びながら傷ついた眸のまま、俺の軀を押さえつけて…
欲望のままに 抱いた。
償うとは言ったけれど こんなやり方じゃない。
暫く離れて暮らそうと言った俺を、翔くんは許さなかった。
彼はただ、
俺が、
暗く落ちて行くことを喜んだ。
失う未来を…
そんな俺に、彼は満足そうだった。
それで、失ったモノが永遠に戻らないんだと…
ようやく分かった。
ただ…
消えてしまいたいと思った。
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