44.周りの思惑(1)

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44.周りの思惑(1)

佐久間氏は「サクラギ」の幹部の中でも、新たに頭角を現した新参の者だった。 一族の中で、櫻木とは疎遠になった家の出だったが、佐久間の家に婿入りしたのちは、営業手腕を生かして大きな存在となっていた。 その彼には娘が一人だけ。 外に出来た子どものだという事もあって、今はまだ正式に佐久間の籍に入っていない。 だが、翔と結婚することになれば、血筋を気にする佐久間夫人も、その存在を認めざるおえないだろう。 「で…? プロポーズされたの…?」 『…まだです。』 「どういう事なの…? あなたが任せて欲しいって言うから、口出しをしないでいるのよ。」 『翔さんは、一見とても優しい方ですけど、頑固なところがあって簡単にはいかないんです。』 「それで…どうするつもり…?」 『もう少し時間を下さい。』 「いいけれど、いつまでもって訳にはいかないのよ。」 私の言葉に詩織はキュウっと下唇を噛んだ。 この娘は翔の事が本当に好きなんだわ。 翔の「サクラギ」での地位固めには佐久間氏の後ろ盾が絶対に必要だった。 けれども、詩織を気に入ったのは、それだけじゃない。 翔に尽くしてくれそうなところが一番気に入っていた。 思った通り、詩織は献身的に婚約者を演じてくれた。 翔だって感謝しているはずだし、そのまま頼ってくれればいいと思っていたのに、誤算があった。 和成が詩織を嫌っている。 翔は段々と生活に順応していき、お兄さんらしくなってきたと思う。 そして何より和成の事を大切に考え優先していた。 元々長男としての自覚の強い子で、責任感も強かった。 あの子の事さえなければ、事故も起こさなかったに違いない。 対向車が向かって来たのは助手席の方だった。 急ハンドルをきって無理に車体の向きを変えたんだと、警察に聞いてゾッとした。 そんなに、あの子を守りたかったの…? あの母子のせいで、姉に何が起こったか十分解らせたと思ったのに… 芳野の頭の中には言いしれない悔しさのようなものが広がっていた。 いつもそうだった。 頭が良くて気立てもいい。 格好も父親似で申し分ない。 そんな翔が何か問題を起こす時、必ずあの子が原因だった。 いつもあの子に振り回されて、きっと、いつかとんでもない事になると心配だった。 之啓さんに何度も忠告したのに「智は悪くない」の一点張り。 でも… あの事故を知っても、彼は平気でいられただろうか…? あんな関係… 父親として許すわけがない。 『おば様…?』 「…好きになさい。仲良くなってくれる事に越した事はないんだから。」 『…あの…?』 「何…?」 『翔さんのお兄さんて、今、どちらにいらっしゃるんですか…?』 「!」 詩織は絶句した芳野に不思議そうな顔を向けていた。
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