44.周りの思惑(2)

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44.周りの思惑(2)

「知らないわ。実の父親と一緒に暮しているはずよ。」 『いつ話すんですか…?』 「…バカおっしゃい。 あの子のせいで事故に逢ったって言うのに話すもんですか。」 『でも…それじゃあ…もし記憶が戻ったりしたら、教えなかった私たちは恨まれるんじゃないですか…?』 「そんなの承知よ。貴方も覚悟して頂戴。何を言われたってソレは教えないって。それと…。」 芳野は努めて冷静な口調を保とうと努めていた。 「お兄さんなんて言い方は辞めて頂戴。」 『え…でも…。』 詩織は、会ったこともない人間を名前で呼ぶのは戸惑われて、困惑を見せていた。 「私はあの子を翔たちの兄弟だとは認めていないのよ。」 『それは…。』 「実際、養子にすらなっていなかったのよ。 法的な事も絡んでくるから…言葉には気を付けて頂戴。」 詩織はさらに当惑した様子で黙り込んでいたが、芳野はハッキリと教えておいたほうが良いと判断した。 智の存在が、翔たちの地位を脅かすものだという事を。 考えただけで、苦々しいものが口に広がる。 愛し合うなんて… 女ならともかく男の子だったせいで、そういった事を全く心配していなかった。 何でよりによって柚加の子どもとなんか… どうせなら、葉月姉さんの最初の子どもが助かれば良かったんだ。 そうすれば本当の兄弟が仲良く暮らせたのよ。 男同士で、あんな間違いだって起こさなかったに違いない。 六か月… たった六か月で出てしまった赤ん坊は生きられなかった。 透明な箱の中で目を塞がれ、弱々しく呼吸を繰り返す痛々しい小さな姿。 可哀想で仕方がなかった。 体調が悪かった姉の代わりに、私が毎日様子を見ようと決めた、 だが、その小さな赤ちゃんは、生まれた一日を頑張るのが精一杯だった。 父に、ちゃんとしたお葬式をしてあげたいと訴えたけれど、醜聞を広める気かと、怒鳴られた。 葉月姉さんはショックで精神的に少しおかくなって、それでも お父様はまるで良かったと言わんばかりだった。 之啓さんを毛嫌いしていて。 親がいないってだけで、ソコまで嫌うなんて… そして妊娠した姉さんを家に閉じ込めて彼に会わせなかった。 柚加の事は援助しておいて、葉月姉さんは責め立たてていただなんて、酷すぎる。 お父様の事だから、智の父親が誰かぐらい知っていたはず。 それでも援助したなんて… そんなに柚加が大切だったの…? 葉月姉さんより…? 芳野の胸にも苦々しいものがこみ上げてきていた。 それは、柚加が自分には出来なかった事をした事への 嫉妬だった。
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