47. END (1)

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47. END (1)

『智、着替えて。』 少し怠くて動きが放漫な俺を、優がクスクス笑いながら着替えさせていく。 もうお昼を回っていたんだけれど、昨夜のあれで相当疲れていて、ご飯を作るの気力もない。 おまけに目元が腫れているに違いない。 顔をまじまじ見られたくなくて俯いていた。 丁寧に髪を梳かれ… ちゅっ、 仕上げにはお決まりの様に唇に唇がくっ付く。 『さあ、出かけるよ。』 優は二人っきりだと、10倍増しに甘くなる気がした。 そのまま手を引かれ車に乗り込んだ。 外を見ると、街はクリスマスに染まり始めていた。 煌びやかな飾りを見ると、なんだかこちらの気分まで高揚してくる。 ふふっ。 クリスマスはどうしよう。 ターキーは買うとして、他のモノは作ろう。 ちょっと凝って料理の本でも探そうかな… 考えるだけで楽しくなる。 好きな人と一緒にご飯を食べて、一緒に寝て過ごす毎日。 信じられない幸せを味わっていた。 涙が溢れそうになって、何とか押しとどめる。 あの話を優に出来て良かった。 辛い恋の記憶。 生きていたくないと思ったむかし。 その全てが過去だった。 もう、俺は死にたいとは思はない。 優は言わなくていいと言ってくれたけど、いつかすべてを話そうと思った。 彼は何を知っても、きっと俺の味方でいてくれる。 だから… 優と一緒にいられればそれでいい。 幸せに浸りながら怖くなり、失うんじゃないかと怯える。 そんな痛みさえ幸せの一部だった。 車が止まったのは よく行くホテルのエントランス。 ここで食事…? 優は降りると俺を招いて、キイをボーイに渡した。 そのままエレベーターで最上階を目指す。 …? ピッ… カードキーが差し込まれた。 『入って。』 促されるまま、先に中に入った。 部屋に足を踏み入れた途端、 パンッ、パンッ。 クラッカーの音。 え… <おめでとうございます。> 《おめでとう、智。》 室内にはチュウに信吾、テーブルに食事とケーキが置いてあった。 『智…誕生日おめでとう。』 優の言葉で、ようやく今日が11月26日だと思い出した。 《で…何歳になったんや…?》 「え…っと、何才だったっけ…。」 誕生日なんて何年も祝っていなかったし、わざわざ自分の年を考えることもなかった。 そして、今はそんな質問の内容より、信吾の姿に目が釘付けになる。 《わからんって、嘘やろ…?自分の年やで…?》 『三十過ぎると数えたくないよな……。』 《おっ、さすが!智の事なら何でも知ってるんや。》 「バカッ!まだそんないってないっ!」 《え…。》 信吾が不自由な状態のまま不思議顔をする。 「まだ…30はいってないはずだっ。」 『クスクスクス…当たり。』 《なんや、覚えてるんやんか…。》 「そうじゃなくって…。」 優を見るとニヤニヤしていた。 きっと、全部わかってるんだ。 癪だけど… 「優が今年の誕生日に26になったから、俺が30なわけない。」 『ふふっ、正解。29才、おめでとう。』 《たいして変わらんやんかっ……って、オーナー、まだ、26!若っ!》 『何言ってんだ。大倉なんて更に年下だぞ。』 《絶対嘘や。》 おかしくて笑える。 むかしはとっても可愛い少年たちだったけど、いまじゃあ、信じられなくらい成長してイケメンの大人の男になっていた。 『難解なミッションに明け暮れてたから、老けてるかもな…。』 《難解なミッション…?》 『宝探しだよ。』 《…?????》 信吾が訳がわからないと言った顔を見せる。 俺にも謎だった。
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