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47. END (2)- 綢繆編 -
『二十歳の頃から人捜しで苦労したんだよ。』
そう言って俺の頭を撫でていた。
優が20歳といったら、俺が23歳くらいの時になる。
櫻木家を追い出されて、沼木のところ散々だったころだろうか…
《なるほど、そうなんや…ほいっ…。》
信吾に乱暴に箱を渡される。
《オーナーが何でも買ってるやろうから、何にしようかごっつー迷ったわー。》
信吾がそう言いながらプレゼントを渡してくる。
だが、俺はお礼も言い忘れて唖然としていた。
《なんや…?》
「なんや じゃないよ、一体どうしたの…?」
《コレ…?》
信吾は暢気に言って松葉づえを振り回した。
「わぁーやめろっ!」
《あ…疲れた…手伝ってェ。》
自分で振り回しといて情けない声を出した。
「一体どうしたの…?」
<仕事中に階段から落ちたそうです。>
「マジで…。」
聞きながら青ざめる。
店には長い階段があった。
だが、信吾はとても元気そうに「平気やっ」と繰り返していた。
そして、振り返ると楽しそうに微笑む優がいた。
俺が優のそばに行って手を握ると、しっかりと握り返される。
嬉しくて仕方がない。
『20代最後だけど、どう…?』
「年の事なんて本当に忘れてた。」
そう答えると、優が熱のこもったやさしい瞳で見つめてくる。
『じゃあ、これから取り戻さないとな…。』
「え…。」
『プレゼント、開けようよ。』
「うん。」
ガサゴソと包みを開けると、中から出てきたのは粘土のキッドだった。
お店で売ってたヤツだ。
気になって眺めてたんだけど…
<智さんにピッタリですね。>
大倉が微笑んでそんな感想を言っていた。
<私からのは自宅へ直接お届けしますから…。>
「そう…。」
<割れ物なんで…。>
『後ね…。』
「うん…?」
割れ物…
ピンポーン。
誰だ…?
大倉が出ると騒々しい音がする。
二人の見知らぬ男が二人入って来て、おかしな化粧をした格好のまま漫才を始めた。
俺はあまりテレビを見ないから誰だかわからなかったけど、みんなが腹を抱えて笑うのが楽しくて俺も一杯笑った。
優が信じられない奇声を発して、腹を抱えて笑ってるのが一番嬉しかった。
優…
ありがとう…
幸せを
ありがとう。
本当にリラックスして笑っている愛しい人の顔を、笑いながら眺めていた。
この幸せがいつまでも続いてほしいと願いながら…
しあわせの木 綢繆編 終
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