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2日目
気がつけば朝になっていた。頭を振って目覚まし時計を止める。辺りを見回すと、いつもと同じ風景の中に昨夜の毛の塊がまだそこに落ちていることに気づいた。昨夜は小鼠くらいの大きさだと思ったそれはハムスターくらいの大きさだった。見たこともない塊だ。しっぽもなければ耳もないし目がどこにあるのか分からないが、毛はふさふさとして艶々と輝き、生きているように感じられる。
出勤時間が迫っていた男は塊を跨いで部屋を移動すると朝の身支度を素早く済ませて部屋を出た。すでに日は高い。町はもう動き出している。部屋を一歩出たところで、塊のことはもう忘れてしまった。
帰宅はその夜も深夜だった。毛の塊を見つけでギョッとしたのは、単にその存在を今しがたまで忘れていたからだけではない。塊はウサギくらいの大きさがあり、昨夜から場所を移動していないものの、明らかにサイズがでかくなっている。
(こいつ、成長してやがる)。
男は、ここへ来てようやく塊の存在を意識して見た。その毛は黒く、光を反射させた表面はシルバーに輝いている。近づいて見つめるとわずかに反応を示すが、動いて逃げる様子がない。男は座布団を移動すると、その塊の隣にあぐらをかいて座り込む。考える振りをしながら、いつものように反射的にアルコールの缶の栓を開ける。側から見たらきっとシュールな光景だと思う。
(こいつは一体何を食べて成長したのだろう)。
アルコールが回ってきて、そんな事を考えた。ふと見慣れたはずの部屋を見回すが、部屋の食糧で無くなったものは思いつかない。冷蔵庫の中身も減っていないはずだ。だいたい、食糧を摂取するための口がこの毛むくじゃらについているのか?こんな短時間でどうやってここまで大きくなったのだろう。
(こいつは自分の意思で動けるんだろうか)。
この塊は最初に見た時から少しも移動していない。いったいどうやってこの部屋に入り込んだのだろうか。配管のどこからか侵入したのか、壁に隙間でもあるのか。
ひょっとして俺が仕事に行っている間に、部屋を歩き回っているのだろうか。俺が帰る頃を見計らってこの場所に再び戻ってきて…
正体はなんだろう。生きているのかも曖昧だ。
男は食べかけのパンの白いところをちぎると、塊の前においてみた。ひょっとしてパンを食べる瞬間が見れるのではと見張ることにする。何も起こらない。ここは我慢比べだ。男は明日コールの缶を片手に塊を睨み続けた。
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