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夏樹と言う男は、光希の友人だが、正直に言うと私は彼のことはよく知らない。何度か会話をしたことがあったが、なぜこのバカと一緒にいるのか不思議なほどクールな男だった。彼がこの誘いに乗るとは思えなかったが、あれよあれよと話は進み、土曜日の夜に迷いの森に行くことになった。私は全く乗り気ではなかったのだが、心の中にあったほんの僅かの好奇心に押されてしまった。後に後悔することになるとは、このときはまだ知らなかった。
「美加、絶対にこの手放さないでね」
「あはは、本当に心配性だなぁ美月は」
私は美加の手を南京錠の如くガッチリつかんで、目の前を歩く光希と夏樹のあとに続いた。森に入ってから数十分、まだ来た道はくっきりと残っており、迷うことなどないと思われた。
「なんだ、やっぱりただの噂だったんじゃん」
「はぁ、やはり光希の誘いに乗るとろくなことがないな」
光希と夏樹は並んで歩きながら、愉快に談笑していた。夏樹の言う通り、やはりアイツの誘いに乗ったのは間違いであった。早く帰って寝たい。
もはや私の心に芽生えた好奇心は散り散りに朽ち果てていた。
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