プロローグ

5/10
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/160ページ
「あれ、ここから道がねぇな」  光希と夏樹が足を止めた。私達は今まで、森にあった轍に沿って歩いていたが、あるとこからその道標がなくなっていた。 「しゃあねぇ、ここから引き返すか。」  光希は振り返って、私と美加を見つめた。私は以前として美加の手を握ったままだった。 「お前、いつまで美加の手握ってんだよ。ビビりすぎ」  光希は私を茶化すように言って笑った。心底腹が立った。私の貴重な休日を、この森に抱く恐怖心となにも起こらなかった失望で埋めやがって。 「じゃあ帰って俺んちでスマブラしようぜ」  光希がそう言って道を引き返そうとしたときだった。  バサバサバサッ!  急にカラスが数十羽、私達の周りから飛び去った。夜だからその黒い姿をはっきりと確認することは出来なかったが、その羽音は一瞬、私達を恐怖に包んだ。 「うわ、何だったんだ今の」  光希が少ししてから言った。 「また来るぞ」  夏樹がそう言った。彼は光希が振り返ったあとも一人、轍が消えた森の中をじっと見つめていた。そしてその瞬間、またカラスが、いや、あれはカラスなのか。黒い数多の影が私達を包んだ。
/160ページ

最初のコメントを投稿しよう!