第一章 逆光

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 誘拐された門倉唯の祖父、門倉警視総監は今朝自宅を出たところを狙撃され死亡した。狙撃犯の正体は不明。 11時にホテルオーシャン東京から撤収した早河と香道は警視庁に戻った。 誘拐犯が都内各所の報道機関に総監殺害と孫の誘拐事件の一報をファックスで送りつけたことで警視庁前には報道陣が押し寄せている。総監射殺と誘拐事件の件で午後1時から警視庁で緊急の記者会見が行われるようだ。  会議を終えた上野警部が捜査一課に戻ってきた。待機していた早河が上野に詰め寄る。 『人質の情報は?』 『まだ何もない。門倉唯の誘拐については記者会見で正式に公表すると決定した』 『警部、犯人は俺に金が目的ではないと言っていました』 『となると、やはり総監の殺害が狙いだな』 『それもあるとは思いますが……』 早河は眉をひそめて唸った。 『他に思い当たることがあるのか?』 『俺に頭をひねって考えろと言ったんです。目的のひとつに総監殺害はあるとは思いますが頭をひねって考えろと言うからには他にも目的があって犯人は動いているのでは』 『なるほど……。とにかく今は犯人からの次の指示を待つしかない。早河はそれまで待機だ。香道、話がある。少しいいか?』 『はい』 上野は香道を連れて一課のフロアを出た。         * 「早河さん、どうぞ」  憔悴の面持ちで塞ぎ込む早河に捜査一課の同僚の小山真紀がコーヒーを差し出した。 『ああ……ありがとう』 「あのホテル、玲夏が撮影していた所だったんですね。さっき玲夏からメール来て、びっくりですよ」 早河のデスクの隣は真紀のデスクだ。彼女は自分の席に腰掛けてミルクと砂糖をたっぷり入れたコーヒーに口をつけた。 いつも思うがそんなにミルクや砂糖を入れて胸焼けしないのだろうか。  黒髪のボブヘアの真紀は男だらけの捜査一課での紅一点、彼女は早河の恋人の玲夏とは小学生時代からの幼なじみだ。 『俺も参ったよ。指示通りに部屋に行ったら玲夏がいたんだからな』 「誘拐犯は玲夏があそこで撮影していると知っていたんでしょうか?」 『電話での口振りからして知っていたんだろう。玲夏がいたあの1503号室は今日と明日、撮影のため貸し出しになっていた。撮影スケジュールは玲夏の所属事務所と撮影スタッフ、ホテルの人間しか知らないはずだ。奴がどこで玲夏のスケジュールを知ったのかはわからないが……』  そもそも犯人は何故、玲夏と自分が恋人だと知っていた? 何か引っかかる。犯人のあの口調……あの言い回しは前にも聞いたことがある。 どこで……あれは……誰なんだ?
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