story3.Summer vacation 2002

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15.土砂降り(side 晴)  午後6時半、外は土砂降りの雨。西新宿の路地裏にひっそりと佇むヴィンテージ楽器店、シックザールの音楽スタジオにはドラムの晴、ボーカルの海斗、ベースの星夜が集まっていた。 『悠真まだ来ねぇな』  晴は部屋の掛け時計を見て呟いた。今日のバンド練習の集合時間は午後6時だが、30分を過ぎてもギター担当の悠真が現れない。時間に正確な悠真が遅刻するとは珍しく、晴達は落ち着きなく時間を気にしていた。 海斗の携帯が鳴る。 『もしもし……え? 兄貴? うん、まだ来てねぇけど……なんだよそれ』 電話相手とのやりとりで次第に海斗が困惑していくのが晴と星夜にも伝わってくる。二人は黙って海斗を見守った。 『そう、今日は6時にスタジオ集合なのに兄貴はまだ来てない。……うん、わかった』 『海斗、悠真がどうしたって?』  通話を終えた海斗に間髪を容れずに晴が問いかける。海斗は眉間を寄せて頭をクシャっと掻いた。 『よくわかんねぇ。電話、父さんからだったんだけど、なんか図書館に兄貴の荷物が置きっぱなしになってるみたいで』 『図書館?』 『兄貴、夏休み入ってからは図書館で勉強してるんだ。今日も図書館で勉強してからスタジオ来るって言ってた。けど、昼に図書館に荷物預けたままで出掛けてそのまま戻ってこなかったって』 『几帳面な悠真が荷物預けたまま帰るってこともなさそうだよな』 晴が言い、海斗も星夜も頷いた。三人共、悠真の性格を熟知している。 『図書館の閉館時間になっても兄貴が来ないから兄貴が図書館のカード作った時に登録したうちの自宅に図書館の人が連絡したんだ。荷物は父さんが引き取りに行ったんだけど、兄貴の携帯は電源入ってなくて繋がらないって言うし……』 『悠真の携帯繋がらねぇの? …ホントだ、電源切ってある』 試しに星夜が悠真の携帯にかけてみたがコール音さえ鳴らなかった。いつもは冷静な海斗もさすがに狼狽を隠せない。 『家にも帰って来てないらしいし、スタジオには来ねぇし……兄貴に何かあったのかも』 『海斗、落ち着け。……は? 今度は俺に電話かよ』  海斗をなだめている晴の携帯に入る着信。今日は電話がよく鳴る日だ。 相手は同じクラスの陽平だった。陽平とは三年で同じクラスになりすぐに意気投合。彼は隼人や亮とも仲が良い。 『はいはーい』 {晴、隼人からそっちに連絡来てない?} 『隼人? いや、ないけど……』 いつも明るい陽平の声が今は切羽詰まっているように感じた。 {隼人の携帯に何度電話しても繋がらないんだ} 『繋がらないって……』 悠真の次は隼人。何がどうなっているのか晴にはさっぱりわからない。 {あのさ、晴、これは今日の部活終わりの話なんだけどさ……}  そうして陽平から事のあらましを説明された晴は背筋が凍りついた。  まず最初は亮だ。部活の帰りに亮を自転車で高円寺駅まで送った陽平は駅のロータリーで亮が二人組の男に連れて行かれる場面を目撃した。 不穏な現場を目撃してしまい、困った陽平は亮の幼なじみの隼人に連絡。その時は留守電にメッセージを入れ、折り返しかかってきた隼人からの電話で彼は隼人に亮のことを告げた。 隼人は自分が何とかすると言い、一時は安堵した陽平だったがやはり心配が募り再度隼人に連絡したがもう隼人の携帯電話は電源が入っていなかった。 連れ去られた亮、連絡のつかない隼人と悠真、三人の身に何かが起きている。 『陽平。もし明日の朝になっても俺の携帯が繋がらなくなってたら今から言う番号に連絡して。この番号にかければ必ずなんとかなるから』  陽平にメモの準備をさせて晴は口頭で黒龍初代リーダーの龍牙と現リーダーの洸の携帯番号を読み上げた。晴は電話番号の暗記だけは昔から得意だった。 {晴までって何が起きてるんだ? 大丈夫なのか?} 『心配するな。いいか? もしも明日の朝……いや、日付変わった夜中でもいい。俺と音信不通になったならこのどっちかの番号に電話するんだぞ。頼むな』 陽平に言い含め、電話を終える。一連のやりとりを聞いていた海斗と星夜が不安げな顔をしている。 『隼人と亮に何かあったの?』  星夜が聞いてくる。晴は無言で帰り支度を始めていた。苛立った海斗が晴に詰め寄った。 『おい晴。黙ってちゃわからねぇ。兄貴も隼人も亮も……どうしたって言うんだよ?』 『安心しろ。三人は俺が連れて帰る。お前らも今日は練習早めに切り上げて帰ってろ』  晴と海斗の睨み合いが数秒続き、諦めた海斗が晴から離れる。晴はバイクのキーを掴んでスタジオを飛び出した。
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