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「はぁ……」
昼休み。私は自分の席に座りながら、机に突っ伏していた。
「どうしたの、舞香?元気ないみたいだけど」
ふと、上から声が降りかかる。顔を上げてみれば、美優が心配そうに見つめていた。
「あぁ、美優。大丈夫だよ、こっちの問題だし……」
そう言って美優笑みを向ける。でも、表情が晴れないところからして、多分寂しさがにじみ出てしまったんだろうな。
「もしかして……成宮先生の事?」
「っ……」
美優の確信的な台詞に、ピクッと肩が跳ねる。この反応で、案の定バレてしまったらしい。
「あぁ。ひょっとして、先生に会えなくて寂しかったの?」
「あっ……うぅ……」
図星だ。私はさっきのようにまた顔を伏せた。今度はさっきと違って耳が赤い気がするけど。
「確かに今日は成宮先生の授業無かったし、朝の出席確認以来だっけ?」
「……うん、今日もそうだし」
成宮先生。私達クラスの担任である先生とは、実はひっそりと恋仲の関係だった。だからと言って、学校でべったり一緒にいるなんて事は無い。だけど、会えたら軽く話をしたり、何か口実を作って職員室に行ってみたり……。そんな風にして、あの人と学校で会っていた。
一応先生と生徒だし、まだ恋人らしいことなんて出来ていない。それでも、一緒にいられるだけで十分幸せだった。
それなのに。
「今日……というか、ここ最近ね。何となく、避けられている気がして……。ちゃんと先生と話せていないんだ」
最近だって、先生と廊下で会う事はよくあったし、担任のクラスだから、毎日会えることは会える。でも、
――後にしろ。今は忙しい。
ここ何日か、話しかけるとこんな風にあしらわれてしまうのだ。
「そうなんだ……」
眉をひそめる美優に、小さく頷く。
「私、先生に何かしちゃったかなって……。面と向かって話そうと思ったの。……でも先生は、仕事とプライベートきっちり分ける人だし、仕事の邪魔したくないから、わざわざ呼び出すなんて……」
携帯を取り出して、連絡先一覧を表示させる。そこには、付き合い始めてから登録されている、先生のアドレス。会話の履歴を見返してみると、『課題の質問があります』という私のメールの後で、先生の短い返答が返されている。 ずっとこれの繰り返しで、全く恋人らしくもない……。
「はぁ、先生と会って話したいな。……もっと色んな事」
「ふふふっ。舞香って、本当に成宮先生のこと大好きなのね」
「当たり前だよ」
携帯から顔を上げて美優を見る。
「先生は確かに厳しい人だよ。でも、仕事熱心だし、かっこいいし……本当は優しい人だもん」
つい熱烈に語ってしまい、恥ずかしくなってきた。思わず美優から目を逸らす。
生徒の間では、厳しいと有名な成宮先生。でも、その厳しさだって、言うなれば愛の鞭みたいなもの。皆が誤解しているだけで、生徒一人一人の事を見てくれる優しい先生なんだよ……。
美優は照れる私を見て笑い声を零すと、「だったら」と手を合わせる。
「今日の放課後に呼び出してみたら?」
「ほ、放課後?しかも今日っ!?」
声を上げる私に、美優は頷く。
「先生、仕事とプライベートは分けてるんでしょ?なら、放課後はもうプライベートの時間なんじゃない?」
「確かに……」
事務の仕事とかはちょっとあるかもしれないけど、それの後というなら、呼び出しても仕事に支障は出ないだろう。でも……。
「やっぱり迷惑じゃないかな、急に呼び出すなんて」
もしかしたら、本当に忙しかっただけかもしれないんだ。だったら「そんな事で呼び出したのか」って言われちゃう気がする。
「いいよ、今日は。また―――」
「もし、迷惑だって思ってたらさぁ……」
私の言葉を遮るように、美優がピンッと人差し指を立てる。
「そもそも連絡先なんて教えてくれないと思うんだけど?」
「あっ……」
言われてみればそうだ。もし、連絡して欲しくなかったら、メールアドレスなんて教えてくれるわけがない。……学校のこと以外でも、連絡して良いんだよね?
「先生に会いたいんでしょ?なら、行動しないと何も進まないよ」
美優は微笑みながら、私の肩をトントンッと叩いた。まるで、私を促すみたいに。
「美優……」
先生と付き合っていることを唯一知っている美優だから、こうやっていつも背中を押してくれる。それがすごく嬉しかった。
「……ありがとう」
私は目を細めて、高鳴る心臓を抑えながら、携帯のメール画面を開いた。
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