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「司ァ」
「おー、悪ぃな」
翌日、大学で司は友人を呼び出していた。
幸運なことに一人目で貸してくれる女子に巡り合え、すでに女子用の服や化粧品を借り終えている。安心した気持ちで友人を待っていると、約束の時間通りにやってきてくれた。
部屋奥に本棚を置いていたため大抵の教科書やノートは無事だったのだが、テーブルに散乱させていたもうすぐ締め切りのレポート資料はダメになってしまい、コピーをしてもらおうと思ったのだ。
受講している講義が休講でゆっくり休めるはずだったのだが致し方ない。まだ失くした理由を知らない金田聡一はへらへら笑いながら手を振って近づいてきた。
「何、コピー欲しいとかさ。一昨日もらったばっかなのに、もう失くしたん?」
「いや、ちょっと爆発して消えた」
「は?」
「だから、爆発して紙びりびりになっちまったんだよ」
金田は緩い顔を固まらせて、信じられないといった様子だ。
「何言ってんのお前、頭イカレた?」
「嘘じゃねえって。爆発事故が起きたんだよ」
「ど、何処で!」
「お隣さん」
「言い方軽っ!」
司のあまりの軽さに驚愕して、肩を掴んで「それ警察もんだろ」とがくがく揺らしながら訴える。それに対し「強く掴むなよ。いてーだろ」と司はずれた文句を言ってくるだけだ。
「大丈夫だよ。もう片方のお隣さんがしばらく泊めてくれることになったから」
「何だ……てっきり泊まるとこ無くてふらついてんのかと思った」
「へーきへーき。んで、コピーさせて」
右手を差し出せば金田が資料をくれた。司はそれを見て盛大に顔を顰める。
「なんっだこれ! きったねえ!」
配られたばかりのプリントたちは無残にも変色し、あちこち破れていた。言われた金田は何故か照れて頭を掻く。
「いやー、床に置きっぱなしにしてたら母ちゃんに掃除機で踏まれるわ、コーヒー零しちゃうわでさ」
「おいぃ!」
「コピーだけならいけるっしょ。文字も読めるし」
「かろうじて、な!」
司は項垂れてしまうが、こちらが頼んでコピーさせてもらう立場なのでそれ以上言えず、汚らしい資料をつまむ様に持ちながらコピー機へ向かった。途中、ちらちら見える司の大荷物に気付いて首を傾げる。
「その荷物、何」
「女子に借りた服と、いらないからってくれた化粧品の試供品」
「へーそうなん……は?」
目を見開いて固まった友人を見て、自分が今おかしな発言をしたことに気が付いた。
「いや、違う! 違うから!」涙目の司に金田が苦笑いで返す。
「最初はそうやって否定すんだよ……まさか親友のお前が女装に目覚めるなんて」
「ほんとちげーからっ!」
「だいじょぶ……どんな姿だって親友は親友さ……」
「顔逸らしながら言わないでぇええ」
必死の形相で説明すること二十分、ようやく事の次第を理解してくれた金田に感謝する。誤解されたままであったなら、明日からまともに会話出来る自信は一ミリも無い。
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