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5.番組(1)
直希はどこに行ってもファンに取り囲まれていた。
撮影していると大勢の女性たちが押し寄せて、けが人が出そうな時ですらあっる。
〔キャッ!〕
そんな心配をしている端から、女性が一団から押し出されて直希の目の前に尻もちをついていた。
ザワザワと不穏な空気を感じる。
「大丈夫…?」
〔え…あ…。〕
直希は優しく手を差し出すと、彼女がおずおずと差し出してきた手を掴んで引っ張り上げた。
周りから悲鳴が聞こえてくる。
感情を殺して彼女が押し出され辺りをに向き直ると、途端にざわめきの波が引いた。
「怪我をしてはいけないので押さないでください。」
そう言って彼女をその中へと押し出すと、ニコリと笑う。
再び黄色い悲鳴が聞こえ始めた。
直希の人気はドラマに子役で出演したことがきっかけだった。
キッズの持ち番組に出演したりと活動の場は広がっているが、あくまで正式なデビューはまだだった。
<長谷川くんならデビューも近いんだろうな…。>
≪そうそう……芹沢さんが絶対にさせてくれますよ。≫
周りに寄って来る後輩たちが憧れを滲ませて誉めたたえる。
〔いい気なもんだぜ…。〕
あ…
背後から誰かの声がて振り返ると、そこにいたのは一つ年上の先輩だった。
トレニーキッズでの上下関係は厳しい。
「今日は、よろしくお願いします。」
まったくパッとしない相手だったが、直希は急いで立ち上がると仕方なく頭を下げた。
〔ふんっ、いこうぜ。〕
だが、軽く鼻であしらわれただけだった。
<気にすることないですよ。長谷川くんが人気があるからやっかんでるんですよ。>
≪そうですよ…。≫
「ありがとう。」
そんなことは言われなくても直希にはわかっていたが、親切な後輩たちにお礼を言っておく。
同い年のヤツや先輩は全部敵だと思っておいた方がいい。
せめて年下だけでも味方につけておいた方が得策だ。
実際懐かれるのは、直希は嫌じゃなかった。
≪あ…。≫
後輩の一人が叫ぶ。
見ればそこには…
直希は慌てて駆けって行った。
「芹沢さんっ!」
『ああ…直希か…。』
「いつ帰ってきたの…?」
『今朝だ。』
帰ってきたばかりで、すぐにここへ来たって事だった。
社長の芹沢は相変わらず忙しい。
結構な人数の大人達が社長の周りを取り囲んでいて、直希は少し話しただけで外へと押し出されてしまっていた。
『直希。』
だが、社長の芹沢にわざわざ手招きされる。
さすがに周りの大人たちも、直希のために道を開けなくてはならなくなった。
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