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5.番組(2)
芹沢が直希を更に近くに呼んだため、直希はわずかに緊張していた。
トレニーキッズたちは直希に羨望のまなざしを向けたり、嫉妬したりと彼と同じ土俵に立とうと躍起になるが、ここにいる大人たちは違う。
どんなに人気があっても、それが一時の事だと分かっている彼らには、直希の存在は消耗される商品に過ぎなかった。
『収録が終わったら待っていなさい。話がある…。』
周りがざわつく。
一気に温度が上がった。
きっとデビューの話だと直希は確信した。
「はい。」
直希は高揚しながら笑顔で返事をすると、誇らしい気持ちでいっぱいだった。
僅かに驚く大人たちの顔を見ることが出来て留飲んが下がったのだ。
デビュー出来たらアイツらみんな傅かせてやる。
直希はそんな事を考えながら、スタンバイするキッズたちの中へと戻っていった。
すごいぞ…
もし直希がデビューしたら、最年少のデビューという事なる。
クックッ…
そうなったら、キッズの先輩にも、先ほどのあんな態度は二度と取らせるもんか。
(トレイニー)キッズは入った順ではっきり上下関係が決まっているが、デビューするとなったら自動的にリセットされる。
「トレイニーキッズ」 ではなく 「芹沢事務所」 の正式なアイドルとしての扱いに変わるんだ。
そうなったら、事務所にキッズとして入所した順番なんて関係ない。
デビューした順になるんだ。
覚えてろ…
直希は自分をバカにしてる奴らをギャフンと言わせる想像に、嬉しくてゾクゾクする恍惚感を味わっていた。
そもそも、あの人たちがデビュー出来ないのは俺のせいじゃない。
華がないんんだ。
いい加減見極めればいいのに…
直希はすっかり有頂天になっていた。
一方、直希の同期達は同期達でザワついていた。
中にはすでに数年以上たっていながら、デビューの見通しなどまったく立っていない者もいた。
〔いいよな…えこひいきされてる奴は。〕
<えこひいきって…。>
〔だってそうだろ…いきなりステージの中心で踊ってるんだぜ。
それも、大して上手くもないのに…。〕
≪それ同感…顔さえよければいいってのヤダ。≫
<やめろよ、人気も実力のうちだろ。>
〔悔しくないのかよ…。〕
<悔しいさ。 でも、ハセくんに人気があるのは事実だろ…?>
その問いかけを誰も否定できなかった。
圧倒的に人気のある奴に逆らうことなんて、できるわけがない。
なんといても、彼はどんなドラマに出演してもそれだけで視聴率をとっていた。
生まれながらにスターがいるとしたら、きっと長谷川直希みたいな奴の事を言うんだろう。
そうわかっていても、みな、嫉妬のあまり、彼を嫌うことでしか消化できないでいた。
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