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6.スキャンダル(1)
直希は社長の車に乗って彼と一緒に自宅へと戻っていた。
大ぴらに出来ないが、直希はしょっちゅう社長宅に泊まっていた。
他にそんなキッズはいない。
普段は養成所で暮らしいるが、こんな風に気まぐれに芹沢に言われるままに、時々彼の家で過ごしていた。
「給料…?」
『一定の額を毎月支払うから自分でやりくりしてみるといい。』
「うそっ、ほんとう…? 俺がお金なんて貰えるんだ…。」
『今まで貰っていなかったような言い方だな…。』
「だって、アレはお小遣いでしょ…?給料じゃないじゃん。」
『そうか…どちらにしろ、直希はそうとう稼いでいるんだから当然だ。自覚があるだろう…?』
「そりゃー多少はね。」
直希は今のなんでも手に入る環境に不都合を感じてはいなかった。
だが、決まった額が自分の自由になるなんて、嬉しくって仕方がない。
『ただ…住むところだけはこちらで決めさせてもらう。』
「え…?」
どういう事…?
そうか…
デビューするから養成所を出た方がいいんだ。
現在の直希の身元引受人は芹沢になっていた。
デビューしてからも、当分の間は彼にお世話になる必要があるだろう。
なんとなく芹沢の考えていることが読めてくる。
時々ここに泊まっているけど、本格的に住むのは…
お手伝いさんもいて至れり尽くせりの場所だが、そうなると外泊が出来なくなる。
『ここに越してきなさい。』
「えっ…ここに住むの…?」
『基本的にはここで私と生活を共にしてもらう。 合宿に参加するときはもちろん合宿所だ。』
「それはかまわないけど…。」
自由が利かなくなる。
監視される感じになるのは居心地が悪かった。
『それから、キッズの番組は来週の収録をもって、いったん終わりだ。』
「はい。」
わかっていたことだった。
もうキッズじゃなくなるんだ。
デビューしたら、今度はキッズの番組にゲストとして登場することになる。
『驚かないんだな…?』
「え…?」
『番組に出さないと言ったんだぞ。』
一瞬、芹沢が何を言っているのかが直希にはわからなかった。
出さない…?
それはアイドルデビューするから。
だが、アイドルとしては出ることもあるだろう。
それなら出さないなんて言い方は変だった。
芹沢を見ると、特に違和感は感じられなかった。
一体どういう意味だったんだろう。
直希はわずかな違和感を感じていたが、デビューする喜びにすっかり感情が高揚してしまって、そんな些細な事はやり過ごしてしまっていた。
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