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2.直希(1)
スタジオの中に 「カァット!」 の言葉が響いて撮影が終わる。
直希は挨拶をそこそこに、上着をひっ掛けらた格好で外へと急かされていた。
驚いた馴染みのスタッフ達に唖然とした表情で見送られる。
「次の仕事だってさ。」
<売れっ子は大変だなぁ…。>
あるドラマの子役として出演して以来、直希の人気は主婦層から火が付いて、うなぎ上りで広がっていった。
中1には見えない大人びた受けごたえが好感を持たれていたし、すっかり出来上がった顔を見て、この先崩れる心配はないだろうというのが大方の予想だった。
≪グラビアの撮影ね。≫
直希が急いで廊下に出ると、メイクを担当のスタッフが慌てて彼を追いかけてくる。
直はそんな彼女に声をかけた。
「撮影って、誰と…?」
≪前回一緒だった子たちだから、構えなくても大丈夫しょ?≫
「なーんだ。」
歩みを止めないまま直希の髪型を直す彼女の言葉を聞いて、彼の体からわずかにあった緊張が消える。
芹沢社長が立ち上げた 「トレイニーキッズ」 に所属はしたが、異色の扱いで彼はユニットやグループとならず、個人活動をメインとして芸能活動を行っていた。
大人と絡むことが多い直希は同年代の子供たちに会えると嬉しかった。
一緒に仕事をする下級生たちは、テレビで見掛ける直希を単純に崇拝してくれて直希には扱いやすい。
傅かれて悪い気はしない。
スタジオに着くとカメラマンが会社の偉い人と話していた。
『長谷川 くんっ。』
年配のオバサンが、ニコニコしながら直希のところに寄ってくる。
番組のプロデューサーだ。
『あなた、本当に綺麗よ。』
そう、彼の耳元でネットリと囁く。
やけに胸元を強調する服がどんどん過激になっていた。
「お疲れ様です。」
直は笑顔を浮かべ、先ほど周りに挨拶をした時と同じ笑顔で、その人にも挨拶する。
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