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2.直希(2)
そして、見せつけてくる胸元など気が付かなかった様に顔色一つ変えず通り過ぎた。
『は、長谷川くんっ。』
少し焦ったような声が直希の背後に投げられる。
だが、直希はそのまま振り向くこともなく同年代の子供が集まっている集団の中に向かっていった。
スタッフから微かな失笑が漏れていた。
直希の背後でスタジオの空気が微かに変わる。
<東郷室長っ!お疲れ様です。>
直希に付いていたマネージャーが緊張のあまりおかしな声を出していた。
それもそのはず、東郷は簡単にキッズたちやマネジャーが近寄れる立場の人間ではなかった。
芹沢事務所の広報室長。
恐い印象だが、それは整った顔がニコリとも笑顔を浮かべないためだった。
やり手で、強引にタレントたちを、番組に押し込んでいく。
その彼が、まだ、タレントでもアイドルでもない直希の為に、わざわざ出向いてスタッフたちに挨拶をしていたのだ。
それは直希が事務所にとって、大事な存在なんだと誰もが認識させられていた。
〔君はもう帰っていいよ。〕
<は?>
〔長谷川くんは私が送り届けるから。〕
静かに告げただけだったが、怒っているのかと勘違いするほど冷たい表情だった。
<は、はい。 お疲れ様でした。>
そう答えると、慌てて直希のマネジャーは帰って行った。
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