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 明るい性格で趣味も多い妙子は人から好かれ、交友関係も広かった。 かたや無愛想で酒癖も悪い治郎に、人は寄り付かなかった。  肉屋の主人や近所の主婦と夕暮れ時に談笑する妙子を見るにつけ、治郎は嫉妬した。  ただ、妙子にも一人だけ、反りが合わない主婦がいたのは意外だった。  あまり夫婦の会話が無い二人だったが、夕飯どきに妙子はその主婦の悪口を(こぼ)した。付き合いが狭い治郎は、主婦の名前を覚えてないが、派手な服装の化粧が濃い女だったことは覚えている。  めったに人を悪く言わない妙子が「嫌い」などと、珍しいことだった。  ただその主婦は、不倫相手と駆け落ちしたとの噂話が流れて以降、町から姿を消した。 妙子もその後は、その主婦のことを口にしなくなった。 ***  真っ暗な部屋で骨箱を前に、妙子にあれこれ思いを巡らせていた治郎は、台所から一升瓶を持ってくるとコップにどぼどぼと注ぎ、一気に(あお)った。  涙が頬を伝った。
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