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カンナの言葉を遮るように、俺は脈絡もないことを、どうにか言い切った。どきどき心臓が跳ねる。カンナは大きく目を見開いて、びっくりしたようにしばらく固まってから--ぱあっと笑顔を弾けさせた。
「ほんと!? それ、最高だよ! 笑うわけない!」
あまりに予想外の反応で、今度は俺が固まる番だった。身を乗り出すカンナの喜びようは今にも俺に抱きつかんばかりで、初めて俺に見せた、素の表情のようにも思えた。
「シオン君は絶対、向いてるって思ったもん! 嬉しいなぁ、後輩ができるなんて!」
そう。カンナは、俺の命の恩人は、ギルド《白薔薇》直属の冒険者。酒場で歓迎されていた男たちと同じ、危険を顧みず人々のために怪物と戦う、この国の戦士だ。
なすすべなく殺されるところだった俺を助けてくれたカンナの強さと、美しさに、俺は骨の髄まで惚れてしまった。
そして、俺もカンナのようになりたいと、思ってしまった。
「……今日、あのバケモノの首を刎ねたとき。俺を殺そうとしてきた相手を、逆に殺してやった……怖いくらいに、それが気持ちよくて」
「うん」
「アブナイ奴だって思うよ。けど、そんな奴じゃなきゃ、たぶんやっていけない仕事だと思うんだ。物心つく前から剣術修行を強制されて、正直、何が楽しくて生きてるのか分からなかったけど……今までの俺の人生が、無駄じゃなくなる道があるなら、挑んでみたい」
俺は弱い。十年を超える剣術修行は、今日、クソの役にも立たなかった。目の前で新客の男性が食われていくのを、何もできず眺めていることしかできなかったのだ。
強くなりたい。カンナのように。俺の剣が、いつか、もし、俺を迎えてくれた温かい人たちの役に少しでも立つなら。
「ウォーカーに、なりたい」
カンナは二度、大きく頷いた。
「私もね。私を助けてくれた白薔薇のウォーカーに憧れて、彼みたいになりたいって思って、ウォーカーになったんだ。みんなにはもんのっすごい反対されたけどね!」
おどけるカンナに俺もつられて笑った。それはそうだろうな。九歳の女の子がそんな世迷言を言い出したら、誰だって止める。
「そんなカンナも、今では白薔薇でもかなり腕の立つウォーカーなんだって? ぜひ、弟子入りさせてくれよ」
「えぇー、師匠なんてガラじゃないよ。それに、ウォーカーになりたいならちゃんとした学校に入った方がいいよ」
「……学校?」
俺にとって馴染みのある、この世界にはあまり似つかわしくないその名前に反応した俺に、カンナが頷く。
「修剣学校って言って、冒険者を養成するための学園をギルドが運営してるの。新客なら学費もいらないし、退役した凄腕ウォーカーが何人も教鞭をとってるから、早く強くなりたいならうってつけだよ」
「へぇ……カンナもそこを出たのか?」
「ううん、私はその……年齢も国籍もバラバラの、知らない人ばかりの学校ってちょっと怖くて。英語もまだ全然できなかったし。ごめんね、勧めておいてなんなんだけど」
そりゃそうだ、九歳の女の子だった。だが、そうなるとカンナは独学であれほど強くなったというのだろうか。
「私は、助けてくれたウォーカーさんに剣を習ったの。日本人だったから言葉も問題ないし、とにかく教え方が上手くて。その人、今じゃ白薔薇のエースなんだよ」
「へえ……」
何やらさっきから、ちょくちょく出てくるカンナの命の恩人。そいつの話をするとき、カンナは露骨に可愛い顔になる。なんとなく、面白くない。
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