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剣の学園
「なぁ、ちょっと!」
朝のホームルームが終わり、三々五々散っていくクラスメートたち。俺はその一人の背中を追いかけて、廊下の途中で捕まえた。
「マリア、さん、だったよね。あのー、さっきはありがと。庇ってくれて」
マリアはくるりと振り返った。フランス人形のような美貌を、初めて正面から目の当たりにした。顔立ちこそ大人びた、思わずどきりとするほどの美形だが、改めて、小さい。身長は130センチあるかどうかというところだ。
「……別に、庇ったわけじゃないわ」
「そうなの? てか、君もウォーカー本気で目指してるんだって? 俺もなんだ。一緒に頑張ろうね」
やはり、ちょっと小っ恥ずかしい台詞も英語だとうまく伝えられる気がする。マリアは俺の言葉に、綺麗な顔を険しくした。
「目指すのは勝手だけど、馴れ合うつもりはないわよ」
予想外に冷たい対応にショックを受けていると、マリアは容赦なく追撃してきた。
「胸ぐら掴まれたぐらいでやりすぎじゃない? 随分楽しそうに暴力を振るうのね。あんたって、外にいるモンスターと一緒だわ」
グサッ、と不可視の矢が俺のガラスのハートを貫いた。硬直する俺をよそにマリアはさっさと背を向け、去って行ってしまった。
追いかけてきたハルが、呆然と佇む俺を心配そうに気遣ってくれた。
「……あの、シオン。さっきは、その、ありがとね。情けないところ見せちゃったなぁ」
無理して笑うハルを、俺はため息混じりに小突いた。
「別にいいよ。俺こそ出しゃばってごめんな。もし報復されたら、すぐ言えよ。半殺しにしてやるからさ」
「気持ちは嬉しいけど……そんなひどいこと、冗談だって言うもんじゃないよ。僕なら大丈夫だから。ね!」
冗談ではなかったのだが、ハルに真剣な顔で言われて俺はますます陰鬱な気持ちになった。俺ってやっぱり、どこかオカシイのだ。
それにしても、この男は人が好すぎる。並んで歩きながら、こいつを守ってやらねばならない、という妙な使命感を強める俺だった。
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