剣の学園

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 何はともあれ、いよいよ修剣学校での最初の授業が始まった。  剣の学び舎。その名に相応しい、厳粛で実践的な剣術を学べると思っていた俺は--早くも、机に突っ伏す寸前だった。 「えー、これは、食べられる野草。これも、食べられる野草。で、これが、食べたら激痛に七日七晩(なのかしちばん)のたうち回ってショック死する毒草」  見事に頭の禿げ上がった、白衣姿の初老教官による、全く見分けのつかない三種類の草の解説を、あくびを噛み殺しながら聴いている。 「この毒草は《ジゴクラク》といって、どこにでも生えておる。毒には数日の潜伏期間があるから誤って食べても気づきにくい。口に入れてしまった場合、ただちに解毒草を摂取せねばならん。で、これがその解毒草。そう、見た目は一緒じゃ」 「……まさか、こんな世界に来てまで勉強しなきゃなんないなんてなぁ。英語だけでいっぱいいっぱいだっての」 「ウォーカー目指すなら、植物学は頑張っておいた方がいいよ」 「その辺に生えてる草なんて、頼まれたって食べねえよ……」  隣のハルと小声で会話する。一時間目は、植物学の授業。薬草、毒草の見分け方から始まり、アカネに原生する、知られている限りの植物について学ぶ学問だそうだ。  壁の外に出るなら知っていて損はない知識なのは分かるが、てっきり日がな一日剣の鍛錬をするものとばかり思っていた俺は、どうにもやる気が出ないでいた。 「む、ナツメ候補生。今あくびをしたな。5ポイント減点」 「あ」  隣でハルが、言わんこっちゃないとため息をつく。  ハゲの教官が、授業の最初に提出した俺の学生証を取り出し、裏面に羽ペンで何やら書き込んだ。  この学校は、必修単位を全て取った上で、各教科担当の教官から合計10,000ポイントを稼ぐと卒業試験に挑戦できる仕組みである。ちなみに俺の現在のポイントは今ので-10だ。 「そんな調子じゃ、一生卒業できないよ」 「うるせぇなぁ。ハルは、今何ポイントなんだよ」 「えーっと、確か2307ポイントだったかな」 「もうそんなに!? すげーなハル、そのペースだとあとどれくらいで卒業なんだよ」 「んー、6ヶ月と20日くらいかな」 「計算早えよ」 「あはは……これ全部座学や研究で稼いだポイントだから。剣がからっきしの僕は、実際そんなに早く卒業できないさ。出席さえすれば10点はもらえるんだから、とりあえず減点だけは避けないとだよ、シオン」 「ナツメ候補生、私語は慎みなさい! 減点20!」  会話、強制終了。俺とハルは口を噤んでペンを持ち直し、黙々とノートに向かった。  ……いや、なんで俺だけなんだよハゲ。
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