剣の学園

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 大学や、自動車学校の仕組みと似ている。  この修剣学校の話だ。  授業は1日60分×5コマ。三限と四限の間に一時間の昼休憩が挟まれる。そして、授業の科目は大きく、"必修"、"選択必修"、"選択"の3つに分けられる。  必修は、全員が履修を義務付けられている科目だ。今日の一時間目、《植物学》は必修科目だが、出席している机はまばらだった。  "内容が日毎(ひごと)に飛ぶ"からである。  この学校は、義務教育ではなく、言わば特殊な資格を取るための場所。地球の文化で考えると、自動車学校が一番身近だろう。  新客のメンタルが回復する時間に個人差があることもあり、この学校では入学のタイミングが定められていない。だから体系的な授業計画が意味をなさないのだ。  そのため、1時間ごとに完結する単発の授業を全ての教官がそれぞれ10時間分用意し、①から⑩までの番号で管理している。  俺たち生徒は、1ヶ月単位で伝達黒板にて発表される時間割計画を参照し、まだ自分の受けていない番号の授業に出席すればよい仕組みだ。スタンプラリーのような形式で10時間分の全ての授業に出席すれば、テストやレポートの提出などの最終課題に合格した(のち)、単位と、100程度のポイントをもらえる。  この仕組みのため、必然的に移動教室が多い。同じクラスの連中でも、実際に受けている授業は毎日バラバラというわけだ。  俺は今日入学したばかり。何に出席してもいいので、ハルが誘ってくれたこともあり、当分はハルの受ける授業にくっついていくことにした。 「つっかれたー……」  午前の授業が終わり、待ちわびた昼休み。学園の食堂は大勢の候補生や教官でごった返していた。 「お疲れ様。この時間はやっぱり多いね。三限は空きにして、早めのお昼にしてもよかったかも」  この学園の生徒数は、入学、卒業、自主退学によって日々増減こそするものの、千人以上と言われている。教官と講師もあわせて百名近く在籍しているから、混雑時の食堂は相当の人数でごった返し、かなりむさ苦しかった。 「ハル、お前それだけしか食わないの?」  向かい合って腰掛けたハルのトレーには、小さな茶碗に盛られた白米と、緑野菜のサラダだけ。この食堂は量り売りのバイキング形式で、必要な分だけ自分で配膳する仕組みだ。ただでさえ破格の料金設定なので、ハルの量だと銅貨一枚でもお釣りがくるに違いない。 「う、うん。ちょっと節約してて」 「そうなのか? 仕方ねえな、俺の分けてやるよ」  俺だって随分節約して、たったの二人前くらいしか米も惣菜も盛っていないのだが。さすがに目の前の友人が忍びなく思われたので、俺は照りのあるハンバーグや魚のフライを箸でつかみ、ハルのサラダの横に添えてやった。 「あ……」 「遠慮すんなよ。そんだけじゃ力が出ないだろ」 「い、いいよ! 気持ちは嬉しいけど、これはシオンが食べなよ。実は肉や魚が苦手なんだ」 「なんだ、菜食主義者(ベジタリアン)ってやつ? そりゃ悪いことした、ごめん」  ハルの皿からハンバーグとフライを救出し、そのまま頬張る。肉も魚も俺の知る世界のものではないが、味や風味が多少違っても、これはこれで美味い。 「……シオンこそ、よくそんなに食べられるね。美味しいの、それ……? モンスターの肉だよ」 「ん、美味いよ。ものによって血の味が濃かったり、臭みが強かったりするけど、それはそれでクセになるもんだぜ。ガキの頃から、クマや野ウサギ、ネズミにトカゲ、ゴキブリなんかも食わされてたから、耐性があるのかもしれん」  ハルは俺の話にますます食欲を無くしたようで、顔を青くしてしまった。 「それはそうと、ハル……お前の履修、座学ばっかりじゃないか」  俺は食事をかきこみながら、恨みがましく目を細めた。  二限は《生物学》だった。主にモンスターの生態について学ぶのだが、教官が開口一番、「モンスターは個体一つ一つが規則性も何もないデタラメな発達をしていて、その上絶え間ない進化を繰り返しているから、学問としてぶっちゃけお手上げ」みたいなことを言い放ち、席に座っている意味を早々に見失った。  三限は《歴史学》。俺にとってはこれが一番面白かった。渋い髭面の教官から語られるアカネの数千年分の歴史は、そのどれもが刺激的で、まさに小説よりも奇なり。授業態度を評価され、10ポイントのボーナスをもらったほどにのめり込んだ。  ここまでの3時間、全て講義形式の座学だ。まさかハルは実践的な訓練を履修していないのではないか。疑うような俺の目に、ハルが慌てて両手を振る。 「そ、そんなことないって。午後の授業は《剣術基礎》だから」
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