茜色の異世界

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 門番は日本語を話せなかった。それでも、中学校英語程度しかわからない俺に、ゆっくり、大げさなボディランゲージを交えながら実に親身に接してくれた。  門番が手近の滑車を回すと、門に隣接した柱から錆びた歯車の回る音がした。その先から伸びた頑強なロープがピンと張り、重たい悲鳴を上げながら、分厚い木製の門をゆっくり真上に引き上げていく。  2メートルほど上がって停止した門の向こう側は、別世界だった。すぐそこのストリートを横切るところだった通行人の女性が、俺に気づいて手を振りウィンクした。  ひたすら真っ直ぐ歩きなさい。心配ない。ここは安全だ、少なくとも崖を滑り降りるよりはね。神のご加護があらんことを--  たぶんそんな風なことを言ってくれた門番に、俺は精一杯「せ、センキュー」と返して、ゆっくり街に足を踏み入れた。  街は賑やかで、逞しかった。建物はどれも一見綺麗だが、何度も修繕を重ねた跡が見えたし、行き交う人々も、汚れや破れの隠せない衣服をまといながら表情だけが華やかだった。  言われた通り真っ直ぐ歩く中で、何度も話しかけられた。一人の露天商が歪な焼肉の刺さった串をくれた。安いレバーのような食感と味で、普段なら口に合わないだろうものが、妙に美味く感じられた。 「……ここか」  5分、10分と歩き、ついに行き当たった城の前で、俺は思わず立ち止まった。花崗岩を思わせる白い石造りで、見上げるほど大きい。金や真紅の飾り布が風を受けて舞い、手入れの行き届いた緑と噴水の庭が囲う。絢爛豪華なその様は、王族でも住んでいそうな佇まいだ。  いかにも場違いで足がすくむ。正面の豪奢な門は固く閉ざされ、度を越えて長い槍を構えた二人の門番が両脇に立っていた。 「あ、あの……城を目指せって言われたんですが」  Oh! と門番がにこやかに片手を広げた。よく分からないが通じたらしい。門番はジェスチャーで、城を迂回するよう伝えてくれた。  言われた通り右へまわると、城の横腹にもうひとつ玄関があった。正面玄関のような絢爛豪華さはなく、黒い鉄格子で脇を囲んだ下り階段が、城の地下に続いているようだった。白い石造りの階段を何段か降りた先の門は、今度は大胆に解放されていて、俺を中へ招いているように感じた。  意を決して正面玄関をくぐった瞬間、むわっとした男臭い熱気が飛び込んできて、否応無く足が止まった。 「うぉぉ……」
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