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7月:ライラ
淑やかな雨音に呼び起こされる。
ぼんやりとした視界は焦点が合わず、寝惚けた思考はよろよろと動こうとしていた。
漸く鮮明になった景色はとてもカラフルで、聞こえる音とは裏腹に空は一向に見えそうにない。
7月だと言うのに少し肌寒さを覚えるここは、どこなのだろう。
徐に体を起こすと、辺りは果てしない水。私は海を流されここに辿り着いたようだ。
漂流した割には自由に動く体。
怪我もなく服も綺麗なまま眠っていたなんて、天国に来たのかな。
何も無い海をただぼーっと眺めていると不意に声をかけられた。さっきまで一人だったのにいきなり話しかけられて凄くびっくりしたけど、ここが“天国”だと思えば何ら不思議な事はなかった。
「やぁ。今回は君なんだね。」
「若者が死ぬなんて珍しいことじゃないでしょ?」
寿命以外にも病気や自殺、事故。年齢なんて関係なく死は突然やってくる。
だから私が天国にいてもおかしな所はない。
「貴方の方が随分と若いけど、ここの案内でもしてくれる天使かしら。」
私より30センチほど小さく、見た目は小学生の男の子。口調が見合わず大人びていて違和感がある。
「君がそう思うならそれで構わないよ。」
微笑した後私の左横に座り、地平線を見つめる。
天国は雲の上にあると思ってたのに、海があるなんて。自分で確かめない事にはわからないものね。
「聞いてもいいかい?」
「何を?」
波は一切立たず雨がつくりだす波紋だけが海を揺らし、模様を描いていた。
「どうして天国に?」
僅かに雨足が強まった気がした。
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