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「痛みが引くまでの間、話を聞かせてくれるかい?」
二人は一瞬顔を強ばらせたものの、パトリックの表情は徐々に解れていった。
「ここに呼んでくれたのは君だね。」
「僕は人を選ばない。ここへ来る者はその運命に従ってるんだ。」
そう。僕が指名する訳でもなくアンジェリカやパトリック、ライラたちはその命を持ってここへ訪れている。
「じゃあ俺らも運命に導かれて…?」
「そういう事になるね。」
“運命”にぴんと来なく、何故自分らなのかもわかっていない。
ここに来る人は皆そうだ。
“運命”だと気付かず僕らは出会い、そして僅かな時間で別れを告げる。
「でも、あの瞬間にここへ導かれるなんて。」
頬を抑えながら呆然と言い、また上を見上げた。
「本当に危なかったんだ。命の恩人だよ。」
「そうね、感謝してもしきれないわ。」
互いに肩を抱き合ってお礼を告げる姿は何度見ても言い難い感情になる。
「…私の父は気の弱い人だったの。」
「アン、その話は、」
「雨の冷たさで痛みが引くまでだから。」
話を遮ろうとしたパトリックの手を取り説得すると、アンジェリカは話を続けた。
「気の弱さは周りに利用される事もよくあって、お見合いの話が進んだのもその性格故だった。」
思い出すのも辛そうで、一言ひとこと紡ぐ度に震える体を弱々しく抑えてた。
「相手が上司の甥御さんだったの。断るに断れないでしょ?」
「難しいだろうね。」
「えぇ。肯定しか出来ない父に父を立てるために動く母。そして何も言わない娘。トントン拍子に話は進んで今日は三回目のデートに出掛けたわ。」
それは楽しいものではなくて、悲劇の始まりだったのだと彼女の纏う雰囲気が物語っていた。
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