7月:ライラ

2/3
前へ
/40ページ
次へ
神様は天から全てを見ている。 小さい頃に母親から言われた言葉だ。 そこまで信仰深くない母が悪戯する私を止めさせようと言った言葉だけど、今は何だか本当なんじゃないかと思っていて。 だから神様の使いである天使も知ってるんでしょ?わざわざ言わせるなんて酷いことするのね。 「どこから聞きたいの?」 隠したところでどうせ知ってる。 この男の子が私と同じ人間じゃなく天使だったらね。 「それじゃあ初めから。」 「いいわよ。その代わり話し終わったら人探しを手伝ってね。」 7月に入って一週間が経った7日に夢を見たの。 最初はいつも通り携帯のアラームで起きて、寝坊助な彼を起こして、一緒にトーストを頬張って。午前から授業のあった彼を見送った後私は家で勉強していたわ。 なんの勉強か?小説を読んでレポートを書くだけよ。高瀬舟って言う短編小説だったし、中学の頃に読んだことあったから直ぐ終わったの。 午後からの授業まで随分と時間が余ってて一通りの家事を終えたら二度寝したわ。夏の暑さってやる気を削ぐんだもの。 夢の中でまた寝るのは初めてだったけど、違和感なく意識を手放したの。けれど1時間後、着信で目を覚ましたの。 電話帳に登録されてない、とっても短い番号から。 「…もしもし」 「ボストン市警の者ですが、ライラ・ダーリングさんで間違いありませんか?」 友達や家族に悪戯することはあっても犯罪に手を染めたことはなかったのに、前触れなく警察から電話が掛かってきた。 身に覚えのない私に連絡が来たってことは、近しい誰かが…。そこで頭が真っ白になって嫌な動悸が止まらない。 時計はランチ休憩が始まった11時30分。 「あの、そう…ですけど」 「先程エディック・ロウさんが病院に搬送されました。ボストン市民病院です。今すぐ向かう事は出来ますか?」 返事なんてしてる余裕もなく財布を剥き出して持って外へ飛び出したの。意外と冷静だったのはがむしゃらに走らないでタクシーを探した事かな。この足で向かってたら1時間はかかっちゃうからね。 (ようや)く着いて受け付けで部屋の場所を聞いてドアを乱暴に開けたら、エディックはいなかった。ううん。それだと語弊があるわね。エディックは確かにそこにあった。けれど余りに無惨な姿は彼だと認識する事が出来なかったの。 既に来ていた彼のお母さんは、立ち尽くす私を見向きもしないで包帯で肌の見えない彼の手を握っていた。 その後ドラマのセリフみたいな事を医者から言われたの。 「今夜が山場です」ってね。 私の夢だから在り来りな言葉なのは当たり前なのに、どうしても正常にはいられなくって、壁に背を預けてただただ窓の外を見つめていたわ。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加