8月:リブラ

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「結構濡れちゃってるけど寒くない?」 自分の服を見直して肌にまとわりつくのが気になり始めた。気にしなければ平気何だけど、一度気にかけると着替えたくなってくる。 「冷たいけど目が覚めれば関係ないし、平気だよ。」 「夢、ね。」 意味ありげに呟いたが、所詮は夢。 それともこの男の子は現実だとでも言う気なのかな。 本当に傘のある島が存在するとでも。 「君の生き方は優しいが故なのかい?」 「架空の人物に核心を迫られるのは何とも言い難いね。」 これは自問自答? 深層心理が見せる夢? 「僕にはよく分からないよ。」 自身に呆れの笑みを零して降り続ける雨を眺める。強まった雨は轟々と音をたてているのに風は相変わらず優しい。 「言うなれば君は美人だ。」 「美人?変なこと言うんだね。」 容姿に不満がある訳じゃないけど、こんな事自分は考えているの? 本当に今日はおかしな事ばっかりだ。 「美人じゃないなら仏のつもりかな?」 「随分な物言いだ。知り合いすらでない僕に何故そう言うの?」 容姿にしろ性格にしろ初対面を褒めるのに使わない言葉だ。まるで僕のことを知ってるかの言い種は疑念でしかない。 夢だということを忘れてしまう程に感情的になり彼を強い口調で問い詰める。 「さっき自分で言ってたじゃないか。僕の言葉は核心をついていると。」 …あぁ。見て見ぬふりをしようとしても君の言動は的を得る。それもただ擦る生ぬるさはなく、確実に真ん中を射る的確さで。 「質問の答えは、“それが僕の役目”だからだ。」 僕には敵はいなかった。 言い換えれば全員の味方でいたんだ。 同級生が同調を求めれば賛同し、親の怒りを買わないため常に様子を伺って笑顔でいた。 全ては平穏な生活のため。 面倒事で時間を潰さないため。 相手に尽くすことは巡り巡って自分のためにやっていた。周りはそんな事思いもしてないだろうな。だって僕は“みんなに優しい”からね。
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