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折り曲げ天に向けていた膝を地につける。
突然の僕の行動に戸惑う様子はなく、彼は静かに眺めていた。
「君に心から感謝している。僕は無力だった。この恩は忘れる事はないだろう。」
最大の敬意を表し、僕はそう宣言した。
長ったらしい感謝の言葉を述べたかったけどいざ口を開くとそれは洗礼された言葉となり、それが僕の全てとなった。
暫く雨音だけになると彼は芝の柔らかな音をさせて僕の隣に座った。
「僕は彼女の話を聞いてあげただけだよ。」
大人びて謙遜する姿は僕よりも年上の貫禄を醸し出していて。
「膝痛くならない?」
まだ立てていた膝を戻して彼に習い座る。
「近しい人が来ることは余りないんだけど、それ程君の気持ちが強かったんだね。十分伝わったよ。」
「僕には出来なかったんだ。それをしてくれた君にどうしても直接言いたくて。」
詩人のように巧みな言葉遣いじゃなく在り来りだけど、全てが詰まった言葉。ちゃんと届いたんだと最後の願いが叶ってよかった。
「彼女が君を大切に思っていたと同じく、君も大切に思っているんだね。」
ふんわりとした微笑みは少年の年相応に見えるのに、口から紡がれるものは不思議と大人で奇妙な心地に浸る。
「あぁ。僕を置いて進んで欲しいと思ってる反面、彼女の愛に嬉しく感じてしまうんだ。」
まだ隣に立ってはいけない。でも愛おしさを拭えない。人生でかけがえのない存在は私情が色濃く表れる。本当に彼への感謝は尽きなかった。
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