第三章 豪雨、すなわち嫉妬

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   ──神戸──  ホテルの部屋のデジタル時計が午前零時を表示すると日付は6月9日の火曜日に変わった。 十一階、1135号室。北澤愁夜の部屋のベッドに速水杏里は寝そべっていた。北澤はシャワーを浴びている。  杏里の携帯電話のメール通知のランプが光った。新着の受信メール欄にある名前を見て彼女は深く溜息をつく。 〈津田〉その名前でしか登録されていない人間から送られて来たメールを読んで杏里はうなだれた。  こんなことしたくない。こんなことをして何の意味がある? でもやらなければ。……やるしかない。それしか道はない。         *    ──福岡──  午前2時。その光景は凄まじい地獄絵となって警視庁組織犯罪対策部の石川博史警部の目に飛び込んできた。 血溜まりに沈む男、腕が不自然に曲がった男、頭が割れた男、何十人もの男の惨殺死体が地面に転がっている。 『派手にやられましたね。コイツら皆、高瀬の組員ですか?』 『そうです。どうやら九州の他の組との抗争でもないようで……とりあえず生き残りの何人かを捕らえています。奴らから詳しい話が聞けるでしょう』  福岡県警の辻村警部はこの地獄絵図から顔をそらして、警官に拘束されている高瀬組の組員に歩み寄る。若い構成員は口から血を出してはいるが、この乱闘から間一髪逃げ延びたようだ。  九州最大の暴力団、高瀬組が急速に解体されている。高瀬組は元々、組長側と組長に対抗勢力を向ける一派で内部分裂していたが、今回の反乱は組の内紛とは別件と見られる。 高瀬組を圧倒的な力で制圧して解体している組織として、あの犯罪組織カオスが浮上した。 奇しくも警視庁捜査一課が現在扱っている明鏡大学准教授殺人事件にもカオスが関わっている可能性がある。  昨年の女子高生連続殺人事件や3ヶ月前の樋口コーポレーションの社長拉致から始まった連続殺人事件、カオスの動きは年々活発化している。 表面化していない事案も含めると犯罪組織カオスが絡んだ事件の数は数えきれない。 (この反乱の裏に貴嶋がいるとすれば、高瀬を追えば何か掴めるかもしれん)  血の臭いで()せ返る空き倉庫から石川は外に出た。福岡の天気は土砂降りの雨。  大粒の雨を身体に受けて、彼はパトカーまで駆け足で向かった。
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