第四章 雷雨、ところにより陰謀

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   ──神戸──  神戸市中央区にある神戸布引ハーブ園でドラマ【黎明の雨】の撮影は再開された。昼過ぎに神戸に到着した玲夏のマネージャーの山本沙織も同行してのロケとなり、なぎさは少し肩の荷が下りた気分だ。  早河から送られてきたメールには嫌がらせの容疑者リストにある女性全員の毛髪や唾液を入手しろとあった。しかも玲夏の分もだ。 ハーブ園のシーンの撮影メンバーは本庄玲夏、沢木乃愛、速水杏里、北澤愁夜。玲夏には事情を説明した上で毛髪をもらうことができたが、難関なのは速水杏里と香月真由。  何気なくベンチに目を向けると、速水杏里がヘアメイクの西森結衣にメイク直しをしてもらっている。 「杏里ちゃん顔色良くないね。気分悪い?」 「ちょっと頭痛くて」 結衣と杏里の会話が聞こえてきた。杏里の唇にリップを塗った結衣は彼女の髪をブラシでとかしている。 一ノ瀬蓮がこのシーンには不参加のため、名目上は付き人の矢野もいない。この現場ではひとりで動くしかない。  杏里がスタンバイに入った。結衣は玲夏のメイク直しに取りかかっている。結衣の視線が玲夏に向いている今がチャンスだ。 なぎさはさりげなくベンチに近付いた。なぎさの行動を察した玲夏が結衣に話しかけ、彼女の視線がなぎさに向かないようにしてくれている。 ベンチに置かれた結衣のメイク道具箱からさっき結衣が杏里の髪をとかしていたヘアブラシを持ち上げた。結衣が綺麗好きなのが幸いして、ブラシには杏里の赤みがかった茶色い毛髪以外は残っていない。 素早くブラシから毛髪を抜き取ってビニールの小袋に入れた。任務の完了に一息ついた頃合いに結衣が戻ってくる。 「秋山さんどうしたの?」 「ここに虫がいたので追い払ったんです」 「えっ、虫? ヤダァ、ありがとう。こういう場所でのロケは気持ちがいいけど虫がいるのが難点よねぇ」 結衣は顔をしかめて頷いた。なぎさも同調して頷くが、心臓の鼓動が速くなっている。 (はぁ。緊張した。これで速水杏里はクリアだからあと一応は乃愛ちゃんの分もか……)  紫色に包まれたラベンダー畑に今は沢木乃愛と北澤愁夜がいる。 役柄では二人は教師と生徒の関係でありながら男女の仲になってしまう。 彼らの束の間のデートの回想シーン。ラベンダーの香りも人の感情もいつかはセピア色に色褪せる。 乃愛も北澤も禁欲と禁断の狭間の煩悩を見事に演じていた。
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