第二章 Doll house

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12月9日(Wed)午前7時 『じゃあ行ってくるね。火の元と戸締まりには気を付けて』 「わかってるよぉ。ほら、早く行かないと新幹線に間に合わないよっ」  高山有紗は玄関で立ち止まる父、政行の背中を軽く押した。靴を履いた政行はふと何か思い至った顔で振り返る。 『有紗、もし何かあればすぐに早河さんに連絡しなさい』 「早河さんに? でも何かって?」 首を傾げる有紗の頭を政行は撫でた。 『早河さんにはあまり迷惑はかけられないが、お父さんがいない間に少しでも怖いことや困ったことがあれば早河さんや香道さんを頼りなさい。あと、お父さんの部下の加藤先生も。カウンセリングで会っているから知っているだろう?』 「うん。加藤先生はなぎささんのお友達なんだよね」 『そうみたいだね。加藤先生も必ず有紗の力になってくれる。だから自分だけで頑張ろうとしないで周りの人達を頼るんだよ』 「はーい」  家の前にタクシーが停まっている。政行を乗せたタクシーを見送った有紗も制服に着替えて家を出た。 (お父さん変なの。出張でお父さんが家に居ないことなんて珍しくもないのに、今日は急に早河さんに頼れとか……いつもそんなこと言わないのになぁ) 父は今日から3日間九州に出張だ。自分の不在の間の娘を心配する気持ちはわかる。しかしいつも言わないことを言われると無性にそれが気になってしまう。 (でも早河さん、最近忙しそうだよね。冬休み入ってから会いに行っても平気かなぁ) 猫柄の巾着袋から出した金平糖を頬張って、最寄り駅まで自転車のペダルを漕いだ。  去年の今頃はまだ父との関係もギクシャクしていて父と喧嘩の末に家出をした有紗は、早河となぎさに出会った。 (あれからもう1年……) そして四人の少女が殺害された聖蘭学園女子生徒連続殺人事件からも1年になる。 あの事件の犯人の佐伯洋介は当時は有紗の担任教師であり、有紗は知らなかったが佐伯は有紗の実の父親の弟、血の繋がりの上では有紗の叔父だった。 有紗の母親と四人の女子高生の殺害に加えて、有紗の殺害を企てていた佐伯は有紗を殺す直前に逮捕されて今は刑務所に服役中だ。 (大丈夫。もう怖いことなんてないよね)  最寄り駅近くの駐輪場に自転車を停める。マフラーに口元を埋めて、有紗は早足で地下鉄の駅の階段を駆け降りた。
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