第三章 Bisque doll

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第三章 Bisque doll

 三鷹市で今朝8時頃に起きた竹本邦夫射殺事件の捜査をしていた上野恭一郎にその一報がもたらされたのは午前11時16分だった。 三鷹市内にある竹本邦夫の自宅で関係者から話を聞いている時に彼の携帯電話が着信を鳴らした。その場を小山真紀に任せて廊下に出た上野は通話ボタンを押す。 着信に表示された名前は上野の先輩刑事で組織犯罪対策課の石川警部だ。 {大変なことになった} 『どうしました?』 {明鏡大学が爆破された} 『爆破? 明鏡大学が……ですか?』  明鏡大学の名前に上野の顔は青ざめた。あの学校には上野と親交のある浅丘美月と、石川の娘で美月の友人の石川比奈が通っている。 {爆発が起きたのは今から15分前の午前11時ちょうど、爆破の規模としては小さいが怪我人も数名出ているようだ。さっき比奈から連絡があってな。幸い比奈は巻き込まれることはなく無事だった} 『そうですか……比奈ちゃんは無事で……。美月ちゃんは……?』 {それが……} 美月の安否を尋ねて口ごもる石川の様子に嫌な予感を感じた。 {爆発が起きる直前に、比奈のところに美月ちゃんから電話があったらしい。爆弾が仕掛けられているから逃げろと美月ちゃんに言われた最中に爆発が起きたと比奈は言っている} 『では美月ちゃんは大学に爆弾が仕掛けられていることを知っていたと?』 {比奈の話から察するとそのようだ。美月ちゃんは今日は午後からの授業で、爆破があった時刻にはまだ登校していなかったと思われる。学校の外から比奈に連絡してきたんだろう。おまけに悪い知らせだが美月ちゃんとはそれ以降、連絡がつかない状況だ。携帯の電源が切られている}  3年前から上野が危惧していた曖昧な不安が一気に形作られて(あら)わになる。 『石さん。もし大学爆破に貴嶋が絡んでいるとすれば美月ちゃんは……』 {最悪のケースは考えたくはないが……。ただ俺達の推測を裏付けるように、美月ちゃんの恋人が勤めるJSホールディングスも同時刻に爆発している} 美月が通う大学と美月の恋人の木村隼人の勤め先が同日、同時刻に爆破された。偶然ではなく意図的な犯行だ。 {JSホールディングス本社の一部が爆破され、その数分前には経営戦略部のパソコンが外部からハッキング被害を受けている} 『やはり佐伯洋介と沢木乃愛の脱獄と都内で連続している事件、裏で糸を引いているのは貴嶋に間違いないようですね』 {そうだろうな。比奈に連絡があった以降の美月ちゃんの行方は掴めていない。彼女が無事ならばいいが……}  現時点では美月が貴嶋に拉致されたとは言い切れない。しかし美月が爆弾の件を知っていたとなれば、それを仕掛けた本人から聞いたと考えるのが妥当だ。 美月が貴嶋佑聖と接触した可能性は高い。 {それと和田組が真壁組を傘下に取り込む動きがある。真壁組幹部の尾崎が和田組の事務所に頻繁に出入りしている} 『和田組の元組長の西山は貴嶋のビジネスパートナーですよね。真壁組を取り込む動きも貴嶋の指示でしょうか』 {真壁組でも対抗勢力が動いている気配がある。和田組の傘下になるってことはカオスの傘下になることを意味しているからな。カオスに従うことを拒む真壁組の連中と和田組の間で抗争が起きるかもしれん}  石川はこれから真壁組の本拠地、新宿の歌舞伎町に向かうと言って通話を終えた。  ──幾つもの糸が複雑に絡み合い、(もつ)れる。縺れた糸の先にはだらりと手足を投げ出した虚無の瞳のマリオネット……
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