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会場中央の美月と貴嶋からは少し離れた壁際に三人の男が並んでいる。ファントムの黒崎来人、スパイダー、スコーピオン。
『あれがキングの愛しの姫君ね。それとラストクロウをこの世に繋ぎ止めた存在か。見たところ普通の女の子じゃないか』
燕尾服を着た黒崎は貴嶋の隣にいる美月を遠巻きに眺めていた。黒崎の言葉にスパイダーが応える。
『普通の女の子だからキングが面白がるんだよ』
『面白いか? キングもラストクロウもなぜあんな娘に夢中になる? あの程度のレベルなら駆け出しのモデルや新人女優に腐るほどいる。俺にはあの子の何がそんなにいいのかさっぱりだ』
黒崎は腑に落ちない様子で首を傾げた。そのうち黒崎の存在に気付いた女性陣が彼を取り囲み、黒崎は女性の輪の中に引き込まれていった。
黒崎の言葉にも一理あるが、スパイダーには貴嶋や佐藤が美月に惹かれる理由がわからなくもない。
『ファントムはああ言うけど、僕はあの浅丘美月には普通でありながらもただの女の子ではない何かがあると思うね』
口数の少ないスコーピオンに対してスパイダーはほぼ独り言として語った。彼は着なれないスーツのネクタイを緩める。
『あの娘……確かハタチだったな』
『もしかして、つぐみちゃんと同じ年?』
スコーピオンは頷いた。スコーピオンの娘、つぐみは15年前に5歳で死んでいる。つぐみはちょうど美月と同い年だ。
『生きていればつぐみもあんな風に成長していたのかもしれないな』
美月を見つめるスコーピオンの横顔に父親の面影が宿る。成長を見ることが叶わなかった娘の姿を同じ年頃の美月に重ねているのだろう。
死んだ人の年齢を数えてはいけないと他人は言う。しかしそれは無理な話だ。
自分が生きている限り、故人は記憶の中で生き続けている。
故人の誕生日を忘れはしない。無理に忘れることもない。
今年もまた共に生きられなかった年数を刻むことの虚しさを知っているのは、大切な誰かの命を失った経験がある人間だけなのだ。
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