第五章 Curtaincall

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 笹本が吐き捨てた最後の言葉の意味を考えていた早河は武田大臣に肩を叩かれて顔を上げる。 『仁、顔色が悪いぞ。大丈夫か?』 『……タケさん。さっきの笹本の言葉どう思う?』 『美知子さんが亡くなったのは武志の正義感のせいだったって? 確かに辰巳が狙うとすれば武志の弱点でもある美知子さんとお前だったが……』 『辰巳は親父を潰すために俺と母さんを狙った。もし貴嶋が俺の弱点を狙うなら……俺の弱点はなぎさだ』 彼は携帯電話の着信履歴からなぎさの電話番号を呼び出した。 『だが、なぎちゃんには家から出るなと言ってあるんだろう? それに彼女の家の周りには護衛の刑事がついている』 『だけどあの笹本の言葉を聞いてから胸騒ぎがするんだ。なぎさに何かあったんじゃないかって……』 なぎさの携帯のコール音が4回鳴ったところで電話が繋がった。 『なぎさ? 無事か?』 {これはちょうどいい。今そちらに連絡しようと思っていたんだよ。早河くん}  ようやく繋がった電話から聞こえた声はなぎさではない。声の主に気が付いた早河の拳が震えている。 『貴嶋……』 {香道なぎさは私が預かっている。君も彼女が家に居て護衛をつけていれば安全だと思っていたんだろうね。甘いなぁ} 『なぎさはどこにいる?』 {焦らない、焦らない。私が指定した場所に君が来てくれたら彼女の居場所を教えてあげよう} 歯ぎしりをして怒りの形相を剥き出す早河の周囲に阿部と栗山も集まった。早河は通話をスピーカー設定にして彼らにも貴嶋の声を聞かせる。 {今すぐ帝国劇場に来るんだ。君がいる日比谷公園から近い。もちろん2年前と同じく、君ひとりで来るんだよ。君達の様子は逐一把握している。劇場に君以外の人間が近付けば香道なぎさの命はない。2年前の二の舞にならないようにね} 2年前の二の舞とはなぎさの兄、香道秋彦を死なせたことを指している。 {言い忘れるところだった。そちらにいる阿部警視殿に伝えてくれ。警視庁と警察庁、城南(じょうなん)総合病院に爆弾を仕掛けた。私が持つスイッチひとつで起爆装置が作動して爆破する仕掛けだ。帝国劇場に早河くんがひとりで来なかった場合はスイッチを押してしまうからね?}  早河と目を合わせた阿部が自分の携帯で各所に連絡を始めた。目黒区の城南総合病院には矢野が入院している。 早河の側で武田も矢野に連絡をしていた。 {早河くんには香道なぎさだけではなく、警視庁、警察庁、矢野一輝と同じ病院にいる人間達の命を背負ってもらう。正義のヒーローは守るものが多くて大変だねぇ} 『俺がお前から起爆装置のスイッチを奪えばいいんだろ』 {相変わらず威勢がいいね。だけど自力で奪って皆を助ける前に君は私に殺されることになる。では、帝国劇場で会おう}  通話の切れた携帯電話を持つ手を下げる。無言の早河に部下と通話中の阿部が近付いた。 『処理犯の手配をした。職員に警視庁と警察庁内の不審物の捜索の指示も出したが……』 『貴嶋のやることです。これがハッタリだとは思えない。俺以外の人間が帝国に近付けばむしろ喜んで爆弾のスイッチを押すでしょうね。タケさん、病院の方は?』 『一輝が爆弾を探している。あいつも黙って寝ていられないんだろう。貴嶋は次から次へとやらかしてくれるなぁ』  武田は額を押さえて天を仰ぐ。つられて早河も空を見上げた。公園に繁る樹の枝の隙間から青い空が覗いていた。 ポケットから出した元気になるダイヤモンドを太陽にかざす。早河の手元を見た武田が怪訝な顔をした。 『なんだ? ドングリか?』 『ただのドングリじゃない。元気になるダイヤモンド。さっき子どもがくれたんだ』 太陽の光を浴びて艶やかに光る元気になるダイヤモンドを強く握り締めた。
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