第六章 Runway

6/12

98人が本棚に入れています
本棚に追加
/93ページ
『黒崎来人を殺したのはこいつかもな。三浦英司……何者なんだ』 「赤坂ロイヤルホテルには複数のカオス幹部や関係者が宿泊していました。美月ちゃんが軟禁されていた部屋は3003号室、同じ階の3001号室に貴嶋と寺沢莉央、二十七階の2701号室にスコーピオンの田村、2703号室にスパイダーの山内、2704号室にファントムの黒崎、それぞれの指紋や毛髪が検出できました。宿泊者が不明な部屋は2702号室です」  真紀のデスクのパソコンには12月8日から11日までの赤坂ロイヤルホテルに宿泊した人間の名前が一覧で表示してある。 「2702号室はシングルルームですが、この部屋も12月8日から11日まで貴嶋が借りていました。カオスの関係者の誰かが泊まっていた部屋なのは間違いありません。部屋に残されていた指紋や毛髪から採取できたDNAと一致する人間は逮捕者の中にはいませんでした」 『前科者リストとも照らし合わせたか?』 「はい。でも前科者でヒットした人間もいません。美月ちゃんがいた3003号室からは2702号室の宿泊者と同じ指紋と毛髪が採取できましたので、おそらく美月ちゃんの世話役となっていた三浦英司のものだと思います」 真紀がマウスをクリックして指紋のデータを表示する。断定はできないがこの指紋が三浦英司と名乗る男の指紋だ。 『……待てよ? 佐藤瞬は試したか? 3年前に静岡で採取した佐藤のDNAデータはまだ残っているだろ?』 「だけど佐藤瞬は……」 『いいから。やってみろ』  早河に促された真紀は前科者リストから佐藤瞬のDNAデータを呼び出した。 「……照合しますよ?」 『ああ』 前科者リストの佐藤瞬のデータと2702号室と3003号室から採取したDNAデータの照合を開始する。一致すれば2702号室の宿泊者は佐藤瞬と言うことになるが結果は不一致だった。 二人は大きな溜息をつく。身を乗り出してパソコン画面に食い入っていた早河は座っていた椅子の背にもたれた。 『そんなに都合良くはいかないか』 「そうですよ。佐藤瞬が生きていて別人に成り済ましていたなんて。そんなことがあれば美月ちゃんにはあまりにも酷すぎる」  早河はコーヒーを飲み、真紀も栄養補助食品の食べかけのクッキーをコーヒーで流し込む。もしも佐藤瞬が生きているとなれば事は重大。緊張で動悸が速くなっていた。 『だよな。海に落ちた佐藤の遺体はまだ発見されていない。まさかとは思ったがそんなこと、ない方がいいよな』 「第一、三浦と佐藤は顔が違います。整形した可能性もゼロではないでしょうけど」 浮上した佐藤と三浦の同一説は消えたものの、依然として三浦の素性は謎に包まれている。三浦英司のDNAデータは残っていても誰のものとも一致しない。まるで幽霊だ。 『早河、貴嶋の取り調べが始まる。来るか?』  フロアに顔を覗かせた上野警部に向けて早河は頷いた。早河が警視庁に来た目的は貴嶋の取り調べに立ち会うためだ。  早河が上野と連れ立って取調室に行ってしまうと真紀はネットの検索画面に三浦英司の名を打ち込んだ。 矢野の調べでは黒崎来人の同級生の三浦英司は高校生ながら劇団に所属し、芸能活動を行っていた。 「やっぱり15年前の、しかも未成年の自殺だから大きく報道はされていないな……」 事件の関連記事はいくつか発見できたがどれも扱いは小さい。15年前の1994年5月に都内の私立高校で男子高校生が首吊り自殺、死亡した高校生は劇団に所属していた、情報としてはこれだけだ。  関連記事の一覧から〈三浦英司くん応援サイト〉の見出しをクリックする。三浦英司のファンが作ったファンサイトだ。 インターネットが普及し始めた頃に作られたサイトは作りもどこか古めかしい。最終更新は94年6月、三浦が死亡した翌月で止まっている。 このサイトはネットの海を15年間ずっと、削除されることなく亡霊のように浮遊していた。  モデルや俳優として活動していた三浦の顔写真が載っている。真紀は赤坂ロイヤルホテルですれ違った例の男の顔写真と照らし合わせた。 (これが三浦英司? どういうこと?) 赤坂ロイヤルホテルにいた三浦英司と15年前に自殺した三浦英司の顔は似ていると表現するには事足りない。 「三浦英司が生きていた? いや、それはない。自殺として処理されているし……整形? でも何のために三浦英司に……」 三浦英司の名を持つ二人の男の顔は瓜二つだった。
/93ページ

最初のコメントを投稿しよう!

98人が本棚に入れています
本棚に追加