確証

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 矢継ぎ早に言葉を紡ぐ矢島に、やっとこさ監督が口を挟んだ。 「確かに、キャプテンの飯島は三年間充分に頑張ってくれた。そのストレートな性格故、直進的な攻めが得意なのはお前も分かるな。だが相手の堀田もストレートな性格で、飯島と真正面からぶつかり合うことになる。監督の立場から言わせてもらうと、今の堀田と飯島とでは堀田に分があると言わざるを得ないのだ。でも矢島、お前は違う。急な視点の変化で相手を惑わすこともできる。それに加え、追い詰められた時のお前の力ならば堀田をも超える力を持っている、と私は信じて疑わないのだ」  矢島はゆっくりと息を吸い込んで、ようやく口を開いた。 「監督。監督は自分の力をどれ程だとお思いなのですか? 選手時代にも立派な成績を挙げられた訳でもなく、はたまた有名大学を出た訳でもない。すいません、監督として、という視点では無意味な発言でした。では改めて、監督は監督として、有名選手を育て上げたことはありますか? そう、一人としていないのです。そんな監督の、信じるというような雲をも掴む言葉に、一体どれ程の意味があるのでしょう。考えるだけ無駄です、皆無なのです。では監督の指導者としての力量がないことを理解した上で、一体監督に何が残るというのでしょうか。スポコン漫画にでも出てくるような鬼監督の如くの熱量もなければ、関羽や張飛といった猛将を従えることができた劉備のような魅力も勿論ない。ただ給料の上乗せ目当てで部活動を見ているんだなー、ってことくらい誰にでも分かりますよ。そんな監督を客観的に見て言わせてもらいます。生徒からの人望もない、四十過ぎても結婚もできない、その上余生を過ごせるだけの貯金もない。あるのは先生達から受けている虐めだけ。おかしいと思いませんか? 監督が虐めを受けるにしても、普通は生徒からなんですよ、このご時世。それが先生同士で、虐めを受けているなんて、私だったら恥ずかしくて恥ずかしくて、街を一人で歩くなんてとてもできませんよ。それならいっそ実家にでも帰って、親の脛でもかじって生きていた方がいくらかマシに思えてきます。もし私が監督の立場であったら、死にます、間違いなく」  額にうっすらと汗をかきながら肩で息をする矢島を、その場にいた全員が見つめていた。そうして矢島以外の一同は目を合わせるなり、安堵の表情を浮かべながら頷き合うのであった。  かくして勝ち抜き方式で行われた決勝戦。大将矢島の見事な五人抜きにより、『第六十七回 悪口大会 団体の部決勝』は静かに幕を下ろした。 ◆◆◆ 完結 ◆◆◆
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