確証

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 決勝の会場と外界を繋ぐコンクリートの通路の壁には、過去の歴戦の爪痕を物語るかの如く、汗なのか血なのかも分からない染みが世界地図のようにいくつも広がっている。通路に面したドアの向こう側、冷たくカビ臭い空気が流れ込むとある選手控え室では、入念なウォームアップを終えた選手達が今か今かとその時を待ちわびていた。 「集合!」  監督の怒号とも取れる地響きのような低い声に、選手達は一気に顔を引き締めて監督を取り囲んだ。 「皆、今まで良く頑張った。その頑張りも全て今日の為だったと言っても良いだろう。それでは、スタメン五名を発表する」  否が応でも選手達に緊張の色が走る。部活動で過ごした三年間の集大成を披露するには、まずはスタメンに入らなければ始まらない。選手達は口を真一文字にして監督の次の言葉を待った。 「先鋒、三上!」 「はい!」  三上は最上の喜びと、そしてスタメンに入ることが出来ない者への配慮を添えて、ぐっと奥歯を噛み締めた。 「次鋒、新井!」 「はい!」  新井は喜びに任せて笑い出しそうになるのをやっとのことで抑えこんだその拍子に、ひゅっと声にもならない音を漏らした。だがそんな新井の様子を見ても、誰も何も言わない。新井の感じる喜びも、自分の名前が呼ばれない悔しさも、皆が同様に理解しているからである。  スタメンの発表は続き、中堅は二年のエース格である佐久間が、副将にはキャプテンである飯島が名前を呼ばれた。残るは最後の椅子となる大将の座。監督はおもむろに口を開いた。 「大将は……矢島!」 「嫌です!」  一瞬の硬直の後、選手達の視線が矢島に集まった。予期せぬ回答に戸惑いを隠せない監督はもう一度繰り返した。 「大将は矢島だ!」 「嫌です!」  そんなはずはないともう一度。 「聞こえなかったのか? 大将は矢……」 「嫌です!」  食い気味だった。矢島の言葉は食い気味に監督の言葉を遮った。
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