お見合いパラダイス!

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お見合いパラダイス!

「きょ、今日は来てくれてありがとう!夏江(なつえ)さん」  ぱつぱつに弾けそうなスーツを着込んだ彼、安井孝(やすいたかし)は。緊張からか、必死で額に浮かぶ汗を拭いながら言った。  彼が室内に入ってきてから、料亭の和室の温度が五度は上がった気がする――が、まあそれはいいだろう。人間は見た目ではない。太っていようと汗っかきだろうと、中身がシャンとしてれば問題ないのだ。なんといっても、名家同士のお見合いである。それぞれの跡継ぎとして立派に仕事がこなせれば、なんの問題もないのである。  そう、外見だけならそれで良かったのだが。 「きょ、きょ、今日はとっても、その、その!」 「ありがとうございます、夏江さん!」  上がりっぱなしで殆どまともに言葉が口にできない孝に代わり、その母親が頭を下げてきた。その顔にも声にも必死な様子が滲んでいる――なんとしてでもこの縁談、成功させねばなるまい!と。  必死になるのも仕方ないことではあるだろう。何故なら孝は。 「まさか!鉄道模型ばっかり作ってばかりの引きこもり!小卒!女子と話すのも幼稚園以来!夢は玉の輿に乗って永遠とヒモとして養ってもらうこと!……なんてふざけたこと抜かしてるうちの息子を、お見合い相手に選んでくださるとは思いませんでしたわ!」  そうなのだ。  この男と来たら、まさかのまさか、という要素が山のように詰め込まれたトンデモ物件なのである。一つならどかく、これが四つも五つも揃ってるあたりが凄まじすぎる。本来なら、お見合い相手として候補に上がっていたことそのものが奇跡でしかない。
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