●●ゲームをクリアせよ!

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●●ゲームをクリアせよ!

 俺と(ひかる)彼方(かなた)。太刀川小では有名な、悪ガキ三人トリオとは俺達のことだ。  同じ小学校の奴が、中学生の不良やらなんやらに絡まれていたのを三人でボコって以来(しかもそれが、隣町の中学の番長格であったものだから大変なことになったという)、すっかり有名になってしまった俺達である。悪戯大好き、悪いこと大好き、大人をからかって遊ぶのも大好き。何回か、交番のお巡りさんに捕まって説教を食らったせいで、お巡りさん達にも知り合いが増えてしまった。一部の年配のお巡りさんには、子供なのに度胸があっていいねえ!なんて謎の感心もされているらしいが。  で、そんな俺達が去年からハマっている遊びがあるのだ。  クラスの中で一人、ターゲットを見つけてそいつでひたすら遊んでやるのである。 「ねえ達矢(たつや)。去年の、他のクラスのこともばーっちり聞き取り調査してきたんだけどさあ」  眼鏡で成績優秀、一見すると大人しそうに見えて腹黒を地で行く彼方が。ニヤニヤしながら、メモを取り出して見せてきた。お、今年もやるのか、と俺は教室の自分の席で、身を乗り出して内緒話の体制。勿論、一番体が大きくて力持ちな光も、俺達の体を隠すようにして身を乗り出している。  ざわざわしている教室内。案外、聞き耳を立てられても話は聞こえないものだ。内緒話をするなら静かな場所より、煩い場所でするに限るのである。 「今年、格好の餌食がいるらしいよお?」 「お?根暗で料理し甲斐ありそうな奴がいるってか?」 「そうそう。僕達三人とも、去年同じクラスじゃなかった奴ね。名前は笛吹祐太(うすいゆうた)。座席番号三番クン」 「おお」  まだ六年生に進級したばかりなので、クラスの席順は名前の順でスタートしている。笛吹――う、で始まるだけあって、彼の席は廊下側の前から三番目という位置だ。ちらり、と俺はそっちの方を見る。記憶力には自信がある方だったが、さすがにまだクラス替えして三日では全員の顔と名前が一致するには至っていない。  そもそもうちの学校は、無駄に学区が広くてクラス数も多いのだ。少子化だの言われるご時勢で、クラスが七組まである小学校というのは非常に珍しいのではないだろうか。一年の間に学年全員を把握するチャレンジ!を毎年試みているものの、なかなかうまくいっていないまま六年生になってしまったというのが実情である。そもそも親の転勤で引っ越したり引っ越さなかったりという生徒が多い地区であるらしく、生徒の入れ替わりもそこそこ激しい。去年同じクラスでちょっと気になっていた美優(みゆ)ちゃんは、五年生の終わりに転校していってしまってしょんぼりだった。 「笛吹って、元六組か。……確かに、六組ってちょっと嫌な面子揃ってたよな。主に女子に」  光が追い出してか、しかめっ面を作った。 「俺らが一昨年ボコった隣町の中学の不良の弟とか妹とか、そのクラスにいたんじゃなかったっけ。あと“魔女”」 「うっげ、それ最悪。俺らだって魔女は敵に回したくねーのに」 「だよなあ」  魔女、と呼ばれる女子が一人いる。市川美亜、という一見すると美人でおしとやか、お嬢様然とした少女だ。何も知らずに見たら“可愛い!タイプかも!”と俺も胸を弾ませていたかもしれない。――こいつがクラス替えのたびにクラスを“支配”して誰かをいじめて回る、とんでもない悪女だと分かっていなければ。  どういうことかは、同じクラスになったことのない俺達にはよくわからない。ただ、彼女と同じクラスになったことのある友人いわく、“彼女の言動と行動でいつの間にかみんなが洗脳されたみたいな状態になる”というやつであるらしい。そして、一人ずつ標的が選ばれて、みんなに無視されたり悪口を言われる対象になる。美亜が“悪い子”と認定した子は、みんなでいじめなければいけないという暗黙の了解が出来上がるのだという。逆らった者は、次の“悪い子”にされてしまう。いじめられたくなければ、そのいじめに加担しなければいけない。そうやって、どんどん恐ろしい連鎖が続いていくのだという。  隣町の不良の兄弟が同じクラスにいたというだけで最悪だろうに(兄達に似て、彼や彼女もまた乱暴であることを知っているからだ。というか、実際拳で殴りあったこともある相手も含まれている)、そんな恐ろしい魔女と同じクラスになってしまうなんて。去年の六組はまさに地獄だったことだろう。――それなのに未だに、先生達の口から美亜の名前が挙がらない、いじめなんて有り得ないとばかりの対応であるあたり、いろいろお察しなわけだが。 「笛吹は、市川美亜を中心としたメンバーに、一番長く虐められてたんだってさ。おまけに、その不良の兄弟どもからは普通にパシりに使われるし。まあ、あれだけ暗いならわからないでもないけどねえ」  彼方が見る先、まだホームルームの前だというのにクラスメートと話す様子もなく、こじんまりと席に座って沈黙している少年がいる。後ろからでは、小柄な体躯に、今時珍しいイガグリ頭の少年であるということしかわからない。ただ、肩は下がり、明らかに目線は低い様子。どことなく、びくびくと怯えて縮こまっているのが伺えてしまう。  きっと、散々六組でひどい目に遭って、自信を喪失してしまっているのだろう。どんよりと暗いオーラは、いかにも“いじめて下さい”と言わんばかりだ。 「生粋のいじめられっ子だなあ、ありゃ」  俺は舌なめずりする勢いで、にやりと笑った。 「鍛え甲斐あるじゃねーか。とことん遊んでやろーぜ」 「おう、達矢。おぬしも悪でござるのー」 「時代劇の真似なの光?似合わない似合わないー!」 「はっはっは」  クラスで標的を決め、そいつを屈服させて、キーワードを言わせたら勝ち。それが俺達のゲームである。  さてさて、今回はどんな悪戯を仕掛けてやろうか。俺達は顔を付き合わせ、早速悪巧みの計画を始めたのだった。
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